75/95
第8章【エピローグ:花のない日】
エピローグ:花のない日
温室での戦いから、数日が経った。
園内はすっかり平穏を取り戻し、黒い花の影もどこにもない。
閉園後、ナオはベンチに腰掛け、缶コーヒーを飲み干す。
夕陽が園内の建物を金色に染めていた。
「……ここ、静かですね」
隣に腰を下ろしたしおりが、視線を遠くに向けたまま呟く。
「昼間はうるさいぐらいやけどな」
ナオは笑いながら言い、手に残った空き缶を軽く回す。
しおりは少し間を置いてから、ふいに口を開いた。
「……今度の休み、どこか行きませんか」
ナオは一瞬きょとんとした後、ゆっくりと笑った。
「……デートのお誘いってやつか?」
「そ、そういうんじゃ……でも、まあ……」
耳まで赤くして視線を逸らすしおり。
ナオは立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだまま歩き出す。
「わかった。じゃあ、ちゃんと行き先は考えとく」
その背中を、しおりは驚いたように見つめ、それから小さく笑った。
二人の間に咲いた小さな約束は、これからゆっくり色を変えていく。
〈シリーズ完〉
「君の残像を乗せて ―影喰いの庭-」




