第8章【第3話:失われた影】
第3話:失われた影
翌朝、園内の警備室に一本の通報が入った。
「昨夜から、夫が帰ってこないんです……」──声は震えていた。
聞けば、その男は前日、家族と温室を訪れていたらしい。
帰り際、ふらりと温室に戻ったまま姿を消したという。
調べると、この数日で園内では計4件の「失踪」報告が出ていることが分かった。
いずれも最後に目撃されたのは……温室周辺だった。
夜、ナオとシュウは再び温室へ向かった。
中は昨日よりも空気が重く、植物の葉擦れの音すら耳に痛いほど大きく響く。
花壇の奥に、あの黒い花が群生していた。
その中心に揺れている影は──昨夜見たものよりも、明らかに人間の輪郭を帯びている。
「先輩……あれ、動いてません?」
シュウの声が震える。
黒い影が、まるでガラス越しにこちらへ助けを求めるように、何度ももがいていた。
その時、ナオは気付く。
影の肩のあたりに、園内スタッフの名札の形が残っている。
数日前に失踪した、清掃員の名前だった。
「……やっぱり、ここに“喰われた”んやな」
呟いた瞬間、黒い花々が一斉にこちらを向いた。
花弁の奥から、ひゅうひゅうと影を吸い込むような風が吹き出す。
温室全体が、ゆっくりと暗くなっていった。




