第8章【第2話:影を食う花】
第2話:影を食う花
翌日の夕方。
ナオはシュウを連れて再び温室を訪れた。昼間のそれは、やはり夢のように美しい。
観光客の笑い声、花の香り──何一つおかしいところはない。
「先輩、昨日ここで何かあったんすか?」
「……影の形が変わったんや」
「影が……?」
冗談かと思ったのか、シュウは笑いかけたが、ナオの真剣な表情に口をつぐんだ。
その日の夜。
閉園後、二人は温室に忍び込んだ。
昼間のあたたかい光景は消え、ガラスの内側はひどく冷え込んでいる。
花々はしおれてはいない──むしろ、昼間よりも瑞々しく膨らんでいる。
「……肥料でもやったんすかね」
シュウが花に手を伸ばしかけた瞬間、その指先の影が花弁の上に落ちた。
次の瞬間──花弁がゆっくりと閉じ、影を吸い込むように巻き取った。
影の端が引きずられ、シュウの腕がわずかに冷たくしびれる。
「っ……! なんだこれ……!」
ナオは咄嗟にシュウを引き離した。
花弁がぱっと開くと、中には黒い液体のようなものが滴っている。
それは床に落ちると、まるで生き物のようにスーッと花壇の土へと吸い込まれた。
「……この花、影を食ってる」
ナオの声は低く、鋭かった。
帰り際、温室の出口に置かれた花壇の前で足が止まった。
そこに植えられていたのは、昼間にはなかった真っ黒な花。
その花の中心には──人間の手の形をした影が、もがくように揺れていた。




