第7章【エピローグ:夜風のあとで】
エピローグ:夜風のあとで
事件の翌晩、園内は穏やかな夜を迎えていた。
観覧車のライトが、ゆっくりと星空に溶けていく。
ナオは人気のないベンチに座り、缶コーヒーを手にしていた。
昨夜までの奇妙な緊張感は、跡形もない。
けれど胸の奥には、まだ微かな余熱が残っている。
「……こんなとこにいたんですね」
声に振り向くと、しおりが小さな紙袋を抱えて立っていた。
袋からは、焼きたてのマドレーヌの甘い香りが漂う。
「夜勤の差し入れ。……今日は、また園内の空気が軽くなった気がする」
そう言って、しおりはナオの隣に腰を下ろす。
「軽い?」
「うん。前みたいな……押しつぶされそうな感じが消えたっていうか」
しおりの目は夜空を見上げ、観覧車の光を映していた。
しばらく二人で星を眺めたあと、彼女がふっと笑った。
「……ナオさん、また何かスッキリした顔をしてますね」
ナオは否定も肯定もせず、ただ小さく肩をすくめる。
遠くで巡回中のシュウの声が聞こえ、その調子外れな鼻歌が夜風に流れた。
「……ま、今日もまたええ夜やな」
ナオがつぶやくと、しおりはその横顔にそっと寄りかかった。
夜風が二人を包み込み、観覧車のライトが星と重なってまた一つ瞬いた。
〈シリーズ完〉
「君の残像を乗せて ―月夜の遊行-」




