第7章【第4話:幕の裏の影】
第4話:幕の裏の影
翌日、園内はサーカス開幕前の熱気に包まれていた。
テント前には記念撮影の列ができ、仮面の団員たちが無言で客の横に立っていた。
その光景は一見華やかだが、ナオには奇妙な緊張感が漂っているようにしか見えなかった。
巡回の途中、シュウが小走りでやってきた。
「先輩、ちょっと来てください。変なの見つけました」
案内されたのは、テント裏の物資置き場。
木箱の陰に、昨夜見たのと同じ“赤い線”の仮面が置かれていた。
ナオが拾い上げると、内側にはやはり文字が刻まれていた。
──第二の幕は、始まっている
「……第二?」
「昨日のが“第零幕”なら、これは……」
シュウの言葉を遮るように、背後から柔らかな声がした。
「それ、触らない方がいいですよ」
振り返ると、白い仮面をつけた団員が一人、立っていた。
しかしその仮面の奥からは、はっきりと人間の瞳が覗いている。
「……あなたは、園の人ですか?」
問いかけても、彼は首を小さく横に振るだけだった。
「ここにいると、いずれ“おなじ”になります」
その声は淡々としているのに、背筋が冷たくなる響きを持っていた。
ナオが一歩踏み出すと、突然、団員の背後に黒い霧が溢れ出す。
霧は彼の肩や腕にまとわりつき、仮面の赤い線が淡く光を帯び始めた。
「……始まります、“第一幕”が」
そう告げると、団員は霧ごとゆっくりと後ろに引き込まれ、テントの奥へ消えた。
残されたのは、仮面の表面にうっすらと浮かんだ指紋の跡。
それは、子どもの小さな指の形をしていた。




