第7章【第2話:仮面の向こう】
第2話:仮面の向こう
翌日、園内は新しいサーカス公演の告知ポスターで賑わっていた。
色褪せた赤と黒の背景に、大きな白い仮面の絵。
その下に書かれた文字は
──「ようこそ、沈黙の舞台へ」
昼休憩の時間、ナオは巡回を抜けてテント前に立った。
入口は厚い布で閉ざされ、中の様子は見えない。
しかし中からは、かすかに鈴のような音が響いていた。
「何か御用ですか?」
背後から声がした。
振り返ると、白い仮面をつけた団員が、すぐそこに立っていた。
近くで見ると、その仮面の表面には細かいひび割れが走っている。
目の部分の穴からは瞳が覗いているはずなのに──闇しか見えなかった。
「ちょっと様子を見てただけや」
そう返すと、団員はほんの僅かに首を傾げ、低い声で言った。
「……開演までは、お近づきにならないほうがいいですよ」
それだけ言うと、団員は音もなくテントの中へ消えた。
布の隙間から中を覗こうとしたが、暗闇しか映らない。
その夜。
園内を巡回していたナオは、再びテントの前を通りかかった。
中から微かな歌声が聞こえる──いや、声というより、吐息の連なり。
それが規則正しく、まるで何かの呪文のように繰り返されている。
布の隙間から、そっと中を覗いた。
そこには、円形に並んだ団員たちがいた。
全員が仮面をつけ、天井から吊るされた巨大な人形のようなものに向かって何かを唱えている。
人形の顔もまた白い仮面。
だが、その仮面の口元がゆっくりと開き、奥から黒い霧のようなものが漏れ出した。
漏れた霧は団員たちの仮面の隙間へと吸い込まれていく。
そのたびに、団員たちの肩が痙攣のように震えた。
ナオが息を飲んだ瞬間──
人形の仮面が、真っ直ぐこちらを向いた。
暗闇の奥から、ひび割れた声が響く。
「……見ていたのは、あなたですね」
瞬きした時には、声も霧も消えていた。
ただ、夜風がテントを揺らし、その隙間から赤い線が描かれた仮面が一つ、ゆっくりと外に滑り落ちた。




