第5章【最終話:灯りの向こうに消えるもの】
第10話:灯りの向こうに消えるもの
閉園後のパーク。
観覧車のそびえる高台から、ナオ、しおり、シュウは静かに園内を見下ろしていた。
共に遅番だったため、みんなで一緒に帰ろうと約束していた。パークを歩きながら少し高台へ寄り道していたのだった。
遠く、バルーン売りの売店の看板が風に揺れ、その向こうにはゴーカートのコースが小さく見える。
昼間は賑やかなアトラクションたちも、夜になると、ただの黒い影だ。
「こうして見ると、全部同じ場所で起きてたのが不思議ですね」
しおりの言葉に、ナオは小さく頷いた。
「……全部、このパークの“灯り”の下や」
そんな会話の直後、下の広場で異変が起きた。
広場に置かれたキャラクター人形、売店のマネキン、噴水の銅像──
全てが同じ方向を向いていた。
まるで、高台にいる三人を見ているかのように。
……そして、遠くにかすかな明かりが、ぽつりと浮かんでいるのが見えた。
「なんか、変じゃないですか?」
「帰った方がいいっすね……」
「行ってみるか」
ナオの声が低く響く。
「え、ちょ、行くんすか……」
三人が広場に降りると、視線の先の明かりは、まるで彼らを誘うように移動していく。
近づくたび、風が止まり、音が消えた。
その光の周りを、淡い影が次々と横切っていく。
観覧車の子ども、鏡の迷路で手を伸ばしてきた子ども、列車の女子高生──
全部、これまで出会った“誰か”だった。
だが、本当のあの子たちの影は消えたはず……。
「ナオさん……これって……」
「え、ちょ、なんか寒いんですけど。ヤバいやつっすか!?俺達、走って逃げた方が──」
「大丈夫や。本物やない。あの子たちはもう次の道を歩んどる」
今まで見てきた影の姿をしているだけ。
最後に、見知らぬ人影が現れる。
長いコートを着ていて、顔は見えない。
だが、確かにこちらを見ている気配があった。
影は何も言わず、足元に何かを落とす。
それは古びた招待券だった。
裏には、かすれたインクでこう書かれている。
──また来てね。
その瞬間、風の無い夜に、かすかに聞こえた。
「……楽しかった……また……」
それは生前の声のようで、息づかいすら感じられた。
しおりが息を呑む間もなく、パーク全体の灯りが一斉に消えた。
真っ暗。
次の瞬間、非常灯が灯り、広場は元通りになっていた。
人形もマネキンも、何事もなかったかのように元の向きを向いている。
「……今さっきの、なんだったんでしょう?」
しおりの声は震えていた。
「俺……今日帰ったら塩盛りますわ……」
ナオは黙ってチケットをポケットにしまい、夜空を見上げた。
──灯りの向こう側には、まだ終わらない夜が待っている。
その夜は、確かに誰かがこちらを呼んでいた。
〈シリーズ完〉
「君の残像を乗せて ―灯りの向こう側-」




