第5章【第8話:ゴースト・カート(前編)】
第8話:ゴースト・カート(前編)
閉園前のパークは、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
片桐ナオは最終巡回のため、人気のない奥のアトラクションエリアを歩いていた。
そこに、低く唸るような音が響く。
──ブロロロロ……。
ナオは足を止めた。
音のする方は、昼間なら子どもたちの笑い声で溢れるゴーカートコース。
営業時間はすでに終わっているはずだ。
ゆっくり近づくと、暗がりの中を一台のカートが猛スピードで駆け抜けていった。
運転席には……誰もいない。
「……勝手に動くはずないやろ」
職員としての本能が、すぐにそれが“事故”か“異常”かを切り分けようとする。
だが、エンジン音はまるで生き物のように鼓動を刻み、こちらへ近づいてくる。
次の瞬間、カートはコーナーを曲がり、ナオの目の前で急停止した。
空の運転席に、ほんの一瞬だけ小さな人影が重なる。
それは中学生にも満たない、小柄な背中。
──走らなきゃ。
風のように、声が耳元をかすめる。
「……誰や?」
思わず呟いた時、カートはまた動き出した。
ナオは咄嗟に別のカートへ駆け寄り、乗り込む。
鍵は抜けているのに、エンジンがかかった。
「一緒に走ったろやないか」
カート同士の距離は一気に縮まる。
バックミラーの中、その小さな影がじっとこちらを見つめていた。
視線は真剣で、どこか焦っている。
カーブを曲がりゴールした瞬間にその影はふっと消えた。
しかし耳元には、確かにこう残った。
──ゴールしないと……。
「まだ終わってへん」
カートのエンジン音が消え、夜のコースに風の音だけが残った。




