第5章【第3話:迷子の答え】
第3話:迷子の答え
昼下がりのパーク。
人気アトラクション「クイズラリーウォーク」は、迷路のような通路を歩きながらクイズを解いてゴールを目指す体験型アトラクションだ。
巡回中立ちよったキャンディ・ノアで休憩中のしおりと出くわした。
何気なく少しだけ立ち話をしているとしおりが問いかけてきた。
「ナオさん、クイズ得意ですか?」
前を通るお客様の持つ参加用の台紙を見ながら笑った。
「まぁ、答えよりヒントを探す方が得意やな」
そう返すと、しおりは「探偵みたい」とクスッと笑った。
その笑顔を見て、ナオは少し胸の奥がくすぐったくなった。
夕方。
客足が落ち着いたクイズラリーウォークで、巡回中のシュウが青ざめた顔でやって来た。
「先輩……ゴールに、変な子どもがいたんすよ。迷子かと思ったら、すぐそこからいなくなって……」
不安を隠せない声に、ナオは眉をひそめた。
「わかった。案内してくれ」
薄暗い通路を進むと、クイズ用の冊子が一枚、ぐしゃぐしゃに破れて落ちていた。
その向こう、少し余裕のある大きさの広間に、ひとりの少年が立っている。
薄汚れたTシャツに短パン、そして──裸足。
ナオが近づくと、少年は小さな声で言った。
「こたえ、教えて……」
「何の答えや」
少年は、クイズの台紙を握っていた。だが、それは色褪せ、日付は十年以上前のものだった。
「お母さんが……迎えに来るから……それまでに、こたえ……」
その声に、ナオの胸がざわつく。
「わかった……一緒にクイズしよか」
「え、やっぱりなんか居るんすか?」
「シュウ、ここはもうえぇ、案内ありがとうな。他のとこ巡回行ってくれ」
シュウが渋々引き下がると、広間は静けさに包まれた。
ナオは少年の台紙を手に取る。
所々破れており、問題が読めない。
当時のクイズ冊子、それを持つ少年の記憶が映像として流れ込む。
これで問題はわかった。
記憶を頼りに答えを導き出す。
「答え、多分こうちゃうか?」
そう言って書き込むと、少年の顔がぱっと明るくなった。
「……ありがとう」
スマホ端末で昔の資料で調べると、その少年は昔、このアトラクションの中で迷子になり、その最中に発作が起こり死亡……母が見つけた時には……と記録されていた。
最後の問題の答え欄には、震える字でこう書かれていた。
「おかあさんのて」
ナオはその台紙をそっと閉じ、少年に呟いた。
「お母さんな、ちゃんと迎えに来てたんやで」
その瞬間、足元にひんやりとした風が流れた。
「でも、僕が……さきにいっちゃったんだね」
少年の姿は、ゆっくりと薄れていく。
少年が小さく呟いた。
「おかあさん……こたえ、わかったよ」
少年が少しずつ消えていく……
「また おかあさんに 会えるかなあ」
「そら当たり前や。絶対会える。だからもう終わっていい」
広間に残ったのは、色褪せた台紙だけ。そこには、達成スタンプが全て揃っていた。
外に出ると、夕暮れの空がオレンジ色に染まっていた。
しおりが入り口で待っていた。
「なんでおるんや?」
「もうすぐ休憩時間終わっちゃうんですけど、その前に思い出して……」
「何をや?」
「昔、ここで亡くなった子が居たって。パートさんから聞いたことあったから、何か関係あるかなと思って来たんですけど……」
「けど……?」
「ナオさん、顔……なんか優しい顔してますね」
「そうか?」
「はい。なんか……誰かを助けた人の顔」
「どんな顔やねん」
ナオは苦笑しつつ、その言葉を胸の奥で噛みしめた。
どこかで、あの少年が母親と再会できている気がした。
パークの明かりが灯り始め、静かに夜が近づいていた。
「……もう、帰れたやろ」
つぶやいた瞬間、広間で見た少年の顔が脳裏に浮かぶ。
耳の奥に、かすかに「ありがとう」という声が残っている気がした。
ナオは小さく息をつき、胸の奥でその声をそっと抱きしめた。
帰り道。たまたま終わり時間が一緒だったこともあり、共に歩いていた。
しおりが少し照れたように笑って言った。
「ナオさん、私も……迷子になったら、ちゃんと探してくれますか?」
ナオは苦笑いを浮かべながら答えた。
「おう。けど、それやったら迷子になる前に、隣におってくれたらええんちゃうか」
しおりはその言葉に、ほんの少し頬を赤らめた。




