第5章【第2話:消えた頂上の少女】
第2話:消えた頂上の少女
夜のパークの静けさを破るように、再びジェットコースターのレールから「カタン…カタン…」という音が響いてくる。
ナオとシュウは足早に階段を上り、乗り場へ向かう。
途中、待ち列となる階段の柵には、誰かが触れたような小さな手形を見つけた。
「……先輩、この手形……ちっちゃいっすね」
シュウが指先でなぞると、すぐに風で掻き消えるように消えてしまった。
乗り場に着くと、電灯の明かりの下に、あの少女がまた座っていた。
白い服、赤いスカート。小さな背中は、今にも夜風に飛ばされそうだ。
「……君、何してるんや」
ナオが声をかけると、少女は振り返った。
その顔は、笑っていた。
しかし、その笑顔の奥に、どこか懐かしさを含んだ寂しさがあった。
「もう一度、乗りたいの。でもいつも止められちゃうから」
小さな声が夜に溶けた。
「そら、勝手に動きそうなったら、誰かが停止させるわなあ」
「え、一人言すか?それって事件ですか?」
その瞬間、コントロールパネルが光を帯び、ボタンとタッチパネルに明かりがついていく。
少女はふわりとした笑顔で、ナオを見上げてくる。
「ちょ、ナオさん!電源ついたんすけど!何もしてへんのに」
「自分じゃあ動かされへんかったやろ。ええよ」
少女は待っていたのだろう。自分の願いを聞いてくれる人を。
「おじさん、ありがとう」
「……おじさんちゃうわ」思わず返すナオに、少女は小さく笑った。
コースターがスピードを増して出発していった。
子ども用ということもあって、乗車時間は短く、すぐに帰ってくる。
とても可愛い笑顔だった。
そして次の瞬間、風が強く吹き抜け、少女の姿は消えていった。
残されたのは、車両のシートに置かれた色あせたリボン。
ナオはそれをそっと手に取った。
「君のことも忘れへん」
「なんか、俺なんもわからないすけど、良かったって感じですかね」
翌日。
資料室で古い新聞記事を見つけたシュウが駆け寄ってきた。
「先輩……十年前、このコースターで……」
紙面には「小学二年生の女児、乗車中の事故で…」という見出しと、小さな笑顔の写真。そこには、リボンをつけた昨日の少女が写っていた。
ナオはしばらく黙ったまま、その写真を見つめた。
外からは、昼のジェットコースターの賑やかな歓声が聞こえてくる。
「……やっと、最後の一周、できたんやな」
そう呟いたナオの手には、少女のリボンがまだ温もりを残していた。




