第5章【第1話:夜のジェットコースター】
第5章:君の残像を乗せてー灯りの向こう側ー
第1話:夜のジェットコースター
夜のパークは、昼間の喧騒が嘘のように静かだ。
高台にそびえる、子どもでも乗りやすいジェットコースター。そのレールが、月明かりを受けて鈍く光っている。
「先輩、やっぱり出るって本当ですか?」
巡回員の制服姿で懐中電灯を構える青年が、少し引きつった笑顔を見せた。
『宮坂 柊』入社二年目の後輩。真面目だが口の軽い男だ。
「噂話だけや。けどな……先週も夜中に勝手に動いたって報告があった」
ナオはレールの方を見上げる。風はないのに、どこかから「カタン…カタン…」と車輪が転がるような音がした。
そんな時、背後から声がした。
「……あれ、ナオさん?こんな時間に何してるんですか?」
「しおりちゃんこそなんや。帰りか?」
振り返ると、しおりが紙袋を抱えて立っていた。
「カフェの閉店作業終わって、納品倉庫まで行くとこなんです。……でも、何かあったんですか?」
シュウがすかさず言う。
「はじめまして。宮坂です。お願いしますっ!先輩のことこれからも相手したってください!」
「は?何言うてんねん!」
顔を赤くするナオと、くすっと笑うしおり。
しかし、その笑顔は次の瞬間、凍りつく。
レールの頂上。誰もいないはずのそこに、小さな影が座っていたのだ。
白い服に赤いスカートを着た少女が、両手で膝を抱え、月を見上げている。
「……あの子、どうしてこんな時間に」
しおりが声を潜めた。
「え、なんか居るんすか?」
シュウには見えないようだった。
俺としおりちゃんには見えていた。
だが、瞬きをした一瞬で、その姿は消えていた。
残されたのは、風に乗って流れてくるかすかな笑い声。
ジェットコースターのレールの向こう側から、灯りが瞬き、誰もいないはずの車両がゆっくりと動き出していた。
「……シュウ、ついて来い。しおりちゃんごめん、行くわ」
ナオの声は低く、しかしどこか決意を帯びていた。
真夜中のジェットコースターが、過去の残像を運び出そうとしていた。




