第4章【第9話:月明かりの下の約束】
第9話:月明かりの下の約束
目の無い子どもたちが、ナオたちを囲んでいた。
その中心に、白いワンピースの女と、カメラマンの青年が立っている。
風もないのに、女の髪がゆらゆらと揺れた。
「……返して」
それはもう、脅すような声ではなかった。
かすれた、泣きそうな声だった。
ナオは深く息を吸い込み、月明かりに照らされた彼らを見渡す。
「お前らの時間は……もう戻らん。実験の記憶なんかに縛られんでええ」
そう言うと、ポケットから一枚の古びた写真を取り出す。
そこには笑顔の家族が写っていた。
──火事の事故の前、白いワンピースの女がまだ人間だった頃の姿。
両親と、カメラマンの青年である兄と一緒に写っている写真。
「こ……れは……」
女の表情が揺らぐ。
「噴水広場におった10歳くらいの子が持ってたカメラ。そん中のデータに残ってたわ」
あの子の持っていたカメラはしっかりしたもので、10歳の子が持つには合うように思わなかった。
そして、しおりと見た時に写っていたのは白いワンピースの女だった。
つまり、カメラは青年のもので、あの少年は“記録を残したい”想いで拾っていたのだろう。
「生き返らせるのは無理や……。でも……」
ナオが頭を深く下げる。
「ナオさん……?」
「俺ではないけど、俺みたいなもんや。まずは謝っとく。黒瀬が……あいつのせいで……本当にごめん」
カメラマンの青年が一歩、前へ出た。
「……姉さん。帰ろう」
その声は、確かな現世の響きを持っていた。
子どもたちの闇色だったその輪郭が、月光に透けていくように淡くなった。
ナオは両手を広げ、声を張った。
「ここは、もうあんたらの牢屋やない! この月明かりが照らす場所に、自由になってええんや!」
声を張り上げる。
「それでも無理なら、これから俺がいくらでも楽しい思いさせたる!このファンタジアランドで!」
「……あ、えっと、私も!手伝います!」
しおりが少し強い声で言う。
「そんで、生まれ変わって、幸せになってくれ……」
次の瞬間、耳の奥に響いていたささやきとひどい頭痛が、静かに消えた。
白いワンピースの女は、涙のような光を一粒だけ落とし、微笑んだ。
「……ありがとう」
そして、彼女も子どもたちも、青年も──夜空に溶けるように消えていった。
静寂が戻る。
しおりが小さくつぶやく。
「ナオさん……影、戻ってる」
足元には、確かに二人の影が並んでいた。
ナオはほっと息をつき、月夜の回廊エリア出口のゲートへ歩き出した。
その背後──砕けた鏡の破片の中に、一瞬だけ黒瀬の笑みが映ったような気がした。
夜風が吹き、割れたガラスがカランと転がる音だけが響いた。




