表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の残像を乗せて  作者: 谷中シノン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/95

第4章【第7話:影のない子どもたち】

第7話:影のない子どもたち


 泣き声が響いた瞬間、鏡迷路の空気が変わった。

 

 冷たく、湿った匂い──まるで地下室の奥に閉じ込められたような、息の詰まる感覚が押し寄せる。


 


 「……今の、聞こえたよな」

 ナオの声は震えていた。

 しおりは返事をしない。ただ、目を見開いたまま鏡の奥を凝視している。


 

 ガラスの向こうで、小さな手形が増えていった。

 

 一つ、二つ……いや、十を超えて、あちこちの鏡に影が現れていく。

 

 どれも、爪が剥がれかけた小さな手。

 

 しかも、どの影にも──足元に影がなかった。


 

 コツ、コツ……と音が響く。

 鏡の中の「子どもたち」が、ナオたちと同じ歩調で近づいてくる。

 

 だが、現実の空間には何もいない。

 

 鏡の中だけで迫ってくるのだ。


 しおりが震える声で呟く。

 

 「……あの時、火事で逃げられなかった子……目を……取られた子たち」

 


 その言葉に合わせるように、鏡の中の子どもたちが顔を上げた。

 

 空洞のように真っ黒な目の穴が、ぽっかりと空いている。

 

 その穴から、じわじわと黒い液体が垂れ、鏡の床に広がっていく。


 

 ナオの耳元で、声が囁いた。


 

 『見つけた……やっと……』


 

 振り向いた瞬間、背後の鏡に自分が映っていた。

 

 しかし、その映像は一呼吸遅れて動く。


 

 しかも──鏡の中のナオの足元には、影がなかった。



 「やめろ……やめろ……!」


  

 叫んでも、影はじわりと薄くなっていく。

 

 まるで、鏡の中へ吸い込まれていくように。


 と、その時──しおりの肩を、冷たい小さな手が掴んだ。

 

 それは鏡から伸びた手だった。

 

 しおりは反射的に叫び、ナオの腕を掴む。



 「ナオさん!ここから出ないと……!」



 駆け出す二人の足元に、何かが絡みつく感触があった。

 下を見ると、それは影だった。

 二人の影が勝手に動き、足を引っ張っていたのだ。


 耳元で、子どもの笑い声が響く。

 その声は、少しずつ遠ざかっていく……はずだった。

 しかし、出口を抜けた瞬間──


 


 光が全て消え、視界は闇一色に沈んだ。


 


 そして、ナオの影だけが──完全に消えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ