表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の残像を乗せて  作者: 谷中シノン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/95

第3章【最終話:パーク中央広場の“影”にて】

第10話(最終話):パーク中央広場の“影”にて


 


 パーク中央広場の噴水──

 一日中日が当たる場所のはずなのに、なぜか**“一角だけ影が消えない場所”**がある。


 


 そこに近づいた子どもが「寒い」と言って泣き出し、

 清掃スタッフはみんな、いつのまにかその周囲を避けるようになっていた。


 


 しおりも、最近その違和感に気づいていたらしく、再び俺に話してくれた。


 


 「なんかね……朝、噴水のそばに花が落ちてるの。造花じゃなくて、毎日違う生花が」


 


 ナオはその話を聞いた夜、閉園後にその“影”の中心に立った。


 


 すると、そこにひとりの少年の姿が浮かび上がる。

 半透明で、年のころは10歳くらい。手には古びたカメラを提げていた。


 


 「ここ、ぼくの場所なんだ。誰にも、取られたくない」


 


 ナオは静かに問いかける。


 


 「どうして、そこにずっといる?」


 


 少年は答える。


 


 「ぼく、いろんな“思い出”を見てるんだ。楽しかった笑い声、すれ違った家族の手。でもね……だんだん、思い出が薄れてきて、怖くなった」


 


 ナオの胸に、ふと浮かぶ既視感。


 


 (この子は、“残像”そのもの……忘れられていく記憶に、しがみついてる)


 


 しおりも今日は遅番だったらしく、業務後に合流してきた。そして、静かに近づいてきて言った。


 


 「……この子、“記録”を残したかったんじゃないかな。消えてしまう前に」


 


 しおりは、カフェの余りの材料で作った“虹色クッキー”を差し出す。


 


 「よかったら、一緒に食べよう?」


 


 少年は、おずおずと手を伸ばす。

 指先がふれた瞬間、クッキーがほんの少しだけ欠けた。


 


 それを見たしおりが、驚きながら言う。


 


 「……ふれてる。ほんまに、ここにおるんやね」


 


 ナオは、少年にそっと語りかけた。


 


 「もう、消えてもええんや。君が見てた“思い出”は、きっと誰かの中に、ちゃんと残ってる」


 


 少年は、少しだけ笑って、空を見上げた。


 


 「……また、見に来てもいい?」


 


 「もちろんや」



 「余りものになるけど、クッキーくらいならまた持ってこれるよ。私も。」


 


 その瞬間、影が音もなく溶けていった。


 

 広場にはしっかりと電灯の灯りが差し込み、長い間消えなかった“影”が初めて完全に消えていた。


 


 ナオとしおりは、その場所に立ち尽くしていた。


 


 ふと、しおりが言った。


 


 「ナオさん、あの子のカメラ……残ってるよ」


 


 足元には、誰も持っていなかったはずの古びたカメラが落ちていた。


 


 それを手に取ると、シャッターが勝手に切られた。


 


 カシャ。


 


 ──写真には、誰もいない噴水前に、知らない女性の後ろ姿が写っていた。


 


 ナオが固まる。


 


 (……誰や?これ……)


 


 しおりもそれを覗き込み、ぽつりとつぶやいた。


 


 「……この人、うちのカフェにも最近、何度か来てたような……」


 


 ナオは顔を上げ、風を感じた。


 


 そのとき、園内アナウンスが鳴る。


 


 「──ただいまより、“月夜の回廊”は、安全点検のため立ち入りできません──」


 


 月夜の回廊。

 それは、**長らく閉鎖されていた“旧エリア”**の名前だった。


 


 ナオの胸に、微かなざわめきが広がる。


 


 (……まだ、“他の何か”は終わってへん)


 


 


 そして、夜の園内に──あの後ろ姿の女が、ひとり静かに歩いているのが見えた。


 


 彼女が向かう先には、かつて誰も知らなかったもうひとつのゲートがあった。

〈シリーズ完〉

「君の残像を乗せて ―午前11時の境界線―」


【To Be Continued】


次シリーズ予告:『君の残像を乗せて ―月夜の回廊―』

廃棄された旧エリア「月夜の回廊」に眠る、“語られなかった過去”。

そして再び、“失われた記憶”が目を覚ます──。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ