第3章【最終話:パーク中央広場の“影”にて】
第10話(最終話):パーク中央広場の“影”にて
パーク中央広場の噴水──
一日中日が当たる場所のはずなのに、なぜか**“一角だけ影が消えない場所”**がある。
そこに近づいた子どもが「寒い」と言って泣き出し、
清掃スタッフはみんな、いつのまにかその周囲を避けるようになっていた。
しおりも、最近その違和感に気づいていたらしく、再び俺に話してくれた。
「なんかね……朝、噴水のそばに花が落ちてるの。造花じゃなくて、毎日違う生花が」
ナオはその話を聞いた夜、閉園後にその“影”の中心に立った。
すると、そこにひとりの少年の姿が浮かび上がる。
半透明で、年のころは10歳くらい。手には古びたカメラを提げていた。
「ここ、ぼくの場所なんだ。誰にも、取られたくない」
ナオは静かに問いかける。
「どうして、そこにずっといる?」
少年は答える。
「ぼく、いろんな“思い出”を見てるんだ。楽しかった笑い声、すれ違った家族の手。でもね……だんだん、思い出が薄れてきて、怖くなった」
ナオの胸に、ふと浮かぶ既視感。
(この子は、“残像”そのもの……忘れられていく記憶に、しがみついてる)
しおりも今日は遅番だったらしく、業務後に合流してきた。そして、静かに近づいてきて言った。
「……この子、“記録”を残したかったんじゃないかな。消えてしまう前に」
しおりは、カフェの余りの材料で作った“虹色クッキー”を差し出す。
「よかったら、一緒に食べよう?」
少年は、おずおずと手を伸ばす。
指先がふれた瞬間、クッキーがほんの少しだけ欠けた。
それを見たしおりが、驚きながら言う。
「……ふれてる。ほんまに、ここにおるんやね」
ナオは、少年にそっと語りかけた。
「もう、消えてもええんや。君が見てた“思い出”は、きっと誰かの中に、ちゃんと残ってる」
少年は、少しだけ笑って、空を見上げた。
「……また、見に来てもいい?」
「もちろんや」
「余りものになるけど、クッキーくらいならまた持ってこれるよ。私も。」
その瞬間、影が音もなく溶けていった。
広場にはしっかりと電灯の灯りが差し込み、長い間消えなかった“影”が初めて完全に消えていた。
ナオとしおりは、その場所に立ち尽くしていた。
ふと、しおりが言った。
「ナオさん、あの子のカメラ……残ってるよ」
足元には、誰も持っていなかったはずの古びたカメラが落ちていた。
それを手に取ると、シャッターが勝手に切られた。
カシャ。
──写真には、誰もいない噴水前に、知らない女性の後ろ姿が写っていた。
ナオが固まる。
(……誰や?これ……)
しおりもそれを覗き込み、ぽつりとつぶやいた。
「……この人、うちのカフェにも最近、何度か来てたような……」
ナオは顔を上げ、風を感じた。
そのとき、園内アナウンスが鳴る。
「──ただいまより、“月夜の回廊”は、安全点検のため立ち入りできません──」
月夜の回廊。
それは、**長らく閉鎖されていた“旧エリア”**の名前だった。
ナオの胸に、微かなざわめきが広がる。
(……まだ、“他の何か”は終わってへん)
そして、夜の園内に──あの後ろ姿の女が、ひとり静かに歩いているのが見えた。
彼女が向かう先には、かつて誰も知らなかったもうひとつのゲートがあった。
〈シリーズ完〉
「君の残像を乗せて ―午前11時の境界線―」
【To Be Continued】
次シリーズ予告:『君の残像を乗せて ―月夜の回廊―』
廃棄された旧エリア「月夜の回廊」に眠る、“語られなかった過去”。
そして再び、“失われた記憶”が目を覚ます──。




