第3章【第8話:おばけ列車の“ひとつ前の車両”】
第8話:おばけ列車の“ひとつ前の車両”
子どもたちに人気のアトラクション、「おばけ列車“ファントム・ライド”」。
暗闇のトンネルを駆け抜け、ホログラムや音響でお化けが飛び出してくる。
でも、最近こんな噂が流れていた。
「列車の前に、“誰も乗っていないはずの車両”が先に走ってるらしい」
「しかも、その車両から見えたんよ。窓の中に、真っ黒な家族が座っとったって」
ナオは、アトラクションの点検日に、夜の施設に訪れた。
コントロール室にいる点検スタッフのひとりがこっそり言った。
「カメラ、消えてもた時間があるんです。出発直前、5秒だけ真っ暗で。それでそのあと、最初の列車が映ってる」
(おかしい。“何か”が通ってるってことか)
ナオは翌朝の試運転に、スタッフとして列車に乗り込んだ。
すると。
前方を走るはずのない“車両”が、すぐ先を進んでいるのが見えた。他のスタッフには見えていないようだ。
(……見える。影が……3つ。父、母、娘……)
前の車両の窓から、小さな女の子がこちらに手を振っていた。
その瞬間、ナオの耳元にかすかな囁きが届く。
「──また、一緒に行こうね、パパ」
ナオは目を閉じて集中する。意識の奥に、強烈な情景が流れ込んできた。
──その“家族”は、3年前の火事で亡くなった。
──最後の思い出の記憶は、このアトラクション。
──娘の誕生日に乗りに来ていた。
事故に気づかず、列車を待っていた3人は──誰にも見られないまま、今も“待ち合わせ”を続けていた。
「この列車が、家族の最後の場所やったんやな」
ナオは手帳から、以前の遺失物記録を取り出した。
そこには、その日落とし物として届いていたピンクのリボンの記載があった。
本部に連絡して今も保管されているというその落とし物を今の内に持ってきてもらうことにした。
列車が終点に着いたあと、ナオは静かに言う。
「──よう待っとったな。今度こそ、ちゃんと一緒に帰ろか」
本部の人からリボンを手に受けとる。
列車の扉が開くと、誰もいないはずの前方から、
ほのかに光る人影たちが、笑顔で立っていた。
お父さんが娘を抱き、お母さんがそれを見守っている。
ナオはそっと、リボンをホームに置いた。
すると3人の姿はふわりと浮かび上がり、やさしい光に包まれて消えていった。
その瞬間、列車の内部に“おかえり”という文字が、一瞬だけ浮かんだ。
それを見たスタッフが、ぽつりとつぶやいた。
「……なんだか今日、あったかいですね」
次回:「第9話:スイーツカフェ“キャンディ・ノア”の閉店ベル」
16時を過ぎると店に響く、誰も鳴らしていない“最後の呼び鈴”。
その音を聞いた子どもだけが、見える“幻のメニュー”があるという──。




