第1章【第3話:記憶のアトラクション】
第3話:「記憶のアトラクション」
ファンタジアランドの片隅に、今は誰も使っていない古いアトラクションがある。
その名も──「ドリーム・メモリーライド」。
かつて“人の記憶を映像として再現する”という最先端システムを売りにしていたが、機器の不具合と「ある事故」をきっかけに封鎖された。
「ミサは、この辺の清掃も担当やったみたいや。裏ルートで入ろか」
ナオはあやめと一緒に、鍵のかかったメモリーライドのシャッター前に立っていた。
「退職扱いとなる1ヶ月前、この場所で夜勤してる記録が最後。防犯映像は“保存失敗”で消されてる」
あやめが出入口のカードリーダーに社員IDをかざすと、警告音が鳴った。
──《アクセス拒否:管理者権限が必要です》
「……普通は、誰も入れないわね。でもナオ、あんたの“裏ルート”ってのは?」
「あるで」
ナオはシャッターの隙間に指を当てた。
……触れた瞬間、あの第六感が反応した。
──真っ暗なライドの内部。誰かが何かを必死に叫んでいる。
──「記録を消さないで……!それが“証拠”なの!」
──次の瞬間、誰かの手がスイッチを──
「……やっぱ、ここで何かあったんやな」
「見つけた。誰かが出入りしている扉。こっちや」
ナオは小声で言い、シャッター横の通路を抜けたところにある古い非常口を開けた。
中は薄暗く、機械油と焦げたような匂いが漂っていた。
全てのモニターは電源が落ちているが、壁際のメインサーバーにだけ、赤いランプが微かに点滅していた。
「電源、生きてる?」
「奇跡的にな。試してみるで」
ナオがサーバー端末の操作パネルに触れた瞬間──
モニターの1つが、自動的に起動した。
画面に現れたのは、ライドの記録映像。
1ヶ月前の深夜。映っているのは──ミサだった。
制服姿で、誰かと話している。顔は映っていない。だが、その“誰か”はスタッフ用ジャケットを着ていた。
音声はほぼ無い。けれど、ミサの口の動きは明らかに何かを言っていた。そして一言だけ音声が流れる……。
「……旧サーバールーム」
直後、何かに驚いたように振り返るミサ。
そして、映像はブツッと途切れる。
あやめが静かにつぶやく。
「誰かが“消した”んじゃない。急な退職に見せかけて、消させたのかも」
ナオは一歩、映像の前に進み出る。
──そのとき。
ライドの乗り場奥にあるステージの裏から、「パチン……」と機械音がした。
あやめと顔を見合わせる。
「……誰か、いる」
二人がそっとライトを当てると、黒い作業服の影が一瞬だけ見えた。
すぐに奥にあったもう一つの非常口から逃げる。
「待てっ!」
あやめが駆け出す。ナオもあとに続く。
非常口を抜けると、夜の観覧車のエリアに出た。逃げる影の背には、パークのロゴ入りのIDタグがぶら下がっていた。
「スタッフ……?」
逃げた影がふとこちらを振り返る。
暗がりで表情は読めない──が、その目は、明らかにナオたちを見据えていた。
「知ってるんやな……“ミサに何があったか”を」
夜の風が、どこか遠くで回る観覧車のカラカラという音を運んでくる。
暗闇の中で黒い作業服の影はソッと姿を消した。
「待てっ」
「待つのは君や。今はこれ以上追いかけん方がえぇ」
追跡の果てに、彼らはパークの“裏側”に隠された、真実の入り口に足を踏み入れ始めていた。
次回予告:第4話「消されたログ」
逃げた人物の正体と、ミサが最後に残した“内部通報メール”。
ナオたちは、パークのサーバー内に隠された“削除されたログ”にアクセスしようとするが、そこには企業が葬り去ろうとしたある【真実】が記録されていた──。