第3章【第7話:観覧車の“13番ゴンドラ”】
第7話:観覧車の“13番ゴンドラ”
このテーマパークには、観覧車がある。
1周およそ12分の空の旅。晴れた日には海まで見えるほどの絶景が自慢だ。
だがその観覧車には──一台だけ、異様に嫌われているゴンドラがある。
「13番」。また観覧車か。
13番という不吉な数字、普通ならあえて欠番にすることも多い中、ここではその番号がなぜか残されている。
だから異変が起きやすいのだろうか。
子どもたちは口を揃えて言う。
「13番だけ、のっちゃだめ」
「中に“ひとり”いるから」
ある日。
午後3時を少し過ぎたころ、スタッフの無線に妙な報告が入った。
「13番……無人のはずなのに、揺れ動き始めました」
ナオはその報告を聞いて、すぐ観覧車へ向かう。
スタッフ用パネルには確かに、13番ゴンドラ“乗客中”の表示があった。
ナオは観覧車の足元に立ち、ゴンドラを見上げる。
そのとき──13番の窓に、小さな影が映った。
子どもだ。
ひとりで、座席にちょこんと座っていた。
ナオはすぐに操作室へ行き、スタッフに言う。
「ゴンドラに“ひとり”おる。……せやけど、誰も乗った記録はないんやな?」
「はい。しかも……この子、何日も前に行方不明になった子に似てるって、別の係員が……」
ナオは目を閉じ、意識を13番ゴンドラへ集中させた。
ゴンドラの中から──冷たい空気と、かすかな子どもの声が聞こえてくる。
「……だって、ここにいれば……またパパに会えると思ったから」
ナオの脳裏に、断片的な記憶が流れ込む。
──雨の日。パパと一緒に乗った観覧車。
──最後に思い出に残る笑顔をくれたのが、13番ゴンドラでの横顔の景色だった。
その後、事故でパパは亡くなり、少年はこの場所に**“最後の記憶”を置いていった**。
(あの子……ここでずっと、帰ってくるのを待っとるんか)
ナオはふと、手帳の中からあるメモを取り出した。
「観覧車の定期点検報告書」──数年前の事故記録には、13番ゴンドラで、乗員が急に泣き出して下車を拒んだという報告があった。
「ちゃんと、言葉にせなあかん」
ナオは、パネルを操作し、13番ゴンドラだけに無線を流し込む。
「パパな。ほんまに、ずっと君のことが大事やった。一人で怖かったよな。でも、ちゃんと笑ってええんやで──って、伝えに来たんや」
数分後──13番のゴンドラが、地上にゆっくりと降りてきた。
扉が開くと、中には誰もいなかった。
ただ、窓ガラスには子どもの手形が残されていた。
その指先には、細い文字が浮かんでいた。
「ありがとう さようなら」
その日から、13番のゴンドラには不思議と“乗れるようになった”という声が増えた。
子どもたちが、怖がらずに入っていく。
「ここ、すごくあったかい!」
「やさしいお兄さんの声が聞こえたよ!」
今でも健在で父親への気持ちが具現化したのか、はたまた、あの子も父親と一緒に……。
パーク外で起きたお客様のその後の真実はわからない。
けど、今も幸せであってほしいと願う。
ナオは空を見上げながら、そっとつぶやく。
「またいつでも、おいで。待っとるで」
次回:「第8話:おばけ列車のひとつ前の車両」
子どもたちは知らない。実は“先に出発する列車”があることを──。
そこには、もう存在しない“家族の記憶”が乗っていた。




