第3章【第6話:ファンシーショップのぬいぐるみ】
第6話:ファンシーショップのぬいぐるみ
園内の人気スポット──ファンシーグッズ専門ショップ「Pico Land」。
そこでいま、小さなブームが起きていた。
“話しかけるとしゃべり返すぬいぐるみ”があるらしい。
ただの録音音声かと思いきや、
返ってくる言葉が子どもによって違うというのだ。
「ママって呼んだら、“はい、ここにいるわよ”って言ったんや」
「パパって呼んだら、“あの子には近づかないで”って……」
ナオはその話を聞きつけて、開店前のショップに足を踏み入れた。
棚には、色とりどりのぬいぐるみたちが並んでいた。
その中で、**ひとつだけ視線を逸らせない“白いくま”**があった。
(妙な気配や……)
ナオがそっと手に取り、耳元に口を近づけた。
「……こんにちは」
しばらくの沈黙のあと──。
「──おかえり、ユウちゃん」
耳元から、やさしい女性の声が聞こえた。
(ユウ?)
ナオは目を閉じ、集中する。
すると、くまのぬいぐるみの中から、まるで録音ではない“生きた記憶”が流れ込んできた。
──ユウという少年が、迷子になった夜。
──雨の中、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめながら泣いていた。
──母親は「絶対にここで待ってて」と言って走り去り、
──それっきり、戻ってこなかった。
「もう、ひとりはいや。おかあさん……どこ?」
ショップの奥の方から、子どものすすり泣きが聞こえた。
ナオが棚を抜けて裏側に回ると、
小さな男の子がしゃがみ込んでいた。くまのぬいぐるみを強く抱いて。
「ぼく、ここにいればママにまた会えるって思って……」
ぬいぐるみの中に、少年の記憶が残っていたのだ。
ずっと、“ここにいて”という母の言葉を信じて。
でも、母はもう──。
「なあ、君の名前、ユウって言うんやな?」
少年はうなずいた。
「君のこと、ちゃんと探してた人が、ほんまにおったんや」
ナオはそう言いながら、スマホ端末を開く。
そこには、かつて別の迷子事件で会った親の名前が、何件も書かれていた。
──そして、ひとつの名前を見つけた。
“村岡ゆきこ(息子:ユウ、くまのぬいぐるみ)”
「見つけたで。君のママ、何年も探してた」
ユウの目に、ぽろぽろと涙が浮かぶ。
「じゃあ……ママ、いまどこ?」
「病院や。でもな、まだ“君に会いたい”って、ずっと思ってる」
ナオはくまのぬいぐるみの首に、細い赤いリボンを結びつけた。
その瞬間──ぬいぐるみがふわっと光り、そして静かにその場から消えた。
残されたのは、床に落ちた小さなタグ。
「To Yukiko. From Yuu.」
次の日。
ショップの片隅に、新しく並べられたぬいぐるみには、
“ふたりでいっしょに、また歩き出そう”というタグが添えられていた。
次回:「第7話:観覧車の“13番ゴンドラ”」
午後3時すぎ、誰も乗っていないはずの13番ゴンドラが自動で動き出す。
中には、“大人には見えない乗客”がいた──。




