第3章【第4話:迷子センターのアルバム】
第4話:迷子センターのアルバム
「……これ、誰のですか?」
迷子センターのカウンターにいたスタッフが差し出したのは、薄く日焼けした手作りのアルバムだった。
中には、子どもと大人が笑って並ぶ写真が何枚も貼られていた。
工作用のシール、手書きのメッセージ──「だいすきなパパとママへ」。
「忘れ物として届いたんですけどね。昨日、お客さんの女の子がこれを持ってきて……“これ、うちのじゃない”って言ったんですよ」
ナオはページをめくる。
アルバムの最後のページには──白く消えかけた一枚の写真。
そこに写るのは、確かに家族三人……のはずだった。
だが、写真の一部がにじんでいる。
──父親の顔だけが、真っ黒に塗りつぶされたように見えた。
(いや、ちがう……“写ってない”んや)
そのとき、ナオの首筋に寒気が走った。
迷子センターの奥の棚。
そこから、かすかに子どもの歌声が聞こえた。
「パパとママに あげるのは おもいでのアルバム──」
誰かが口ずさんでいる。
ナオが棚の裏に入ると、そこに赤いリュックを背負った小さな男の子が座っていた。
目は合っているのに、こちらを見ていない。
「ここ、さがした。ずっと、ずっと」
手にしていたのは、同じアルバム。だがそれは、すでにボロボロにちぎれていた。
「パパとママ、どこ?」
ナオはしゃがんで問いかける。
「君、名前は?」
男の子は、少しだけ笑った。
「パパがね、“名前はいらない”って言った。“この家族はもうなかったことにしよう”って──」
ナオの中で何かが点と線でつながる。
この子は──存在を“なかったこと”にされたんや。
愛してほしかった。でも、忘れられた。
その想いが、“家族のアルバム”として形を取り、誰かの手に渡っては、再び家族を求め続けていた。
「……写真、見てええか?」
ナオがそっと少年のアルバムを開くと、そこに写っていたのは──
笑っている母親と、自分の手を引く“顔のない父親”。
「たぶん、もう会えへん。でもな──君のこと、誰かが覚えてくれてたら、それでええんやで」
ナオは自分の胸ポケットから、小さなメモ帳を取り出した。
名前も、住所も、なにも書かれていない空白のページ。
そこに、ペンで一行書く。
「今日、迷子センターで出会った君を、忘れません」
すると──少年の笑顔が、少しやわらいだ。
「……ぼく、それもらっていい?」
「ええよ。これは、君の“新しい1ページ”や」
少年はその紙をそっと胸にしまい、ふっと消えていった。
迷子センターの室内に、静けさが戻る。
そして、棚の奥に残されたアルバムの最後のページには──
いつの間にか、ナオと少年が並んで立つ写真が増えていた。
次回:「第5話:スワンボートの湖にて」
湖の中心に、誰もいないはずの“漕ぎ続けるスワンボート”。
乗っていたのは、遠い記憶を追いかける親子の残像──。




