第2章【第1話:見えない少年】
【第2章:陽だまりの迷子たち】
第1話:見えない少年
2025年7月13日 日曜日
観覧車のてっぺんからは、今日もパーク全体がよく見える。
17番ゴンドラ。久しぶりな気持ちになる。
あれからもうすぐ1年か。ここで色々あったっけな……。
前回乗っていたお客様が盛大にジュースをこぼしたとのことで、たまたま近くに居合わせた俺が清掃用具を持って1周乗りながら清掃していた。
無事清掃を終えて降りると太陽が射す園内は、笑い声と音楽、ポップコーンの匂いで満たされていた。
片桐ナオは、今日も制服姿で働いていた。
「ホラーパビリオン」エリアの巡回。けれど、彼の一日はそれだけでは終わらない。
──あの事件から、ナオは変わった。
“自分が誰か”をようやく受け入れたあの日から。
「片桐さーん! 例のチケット間違えて渡したやつ、処理終わりましたー」
巡回をしていると「お客様対応に入るために少しだけ代わりに立っててほしい」と頼まれることもそう少なくない。
新人バイトの青葉春菜が手を振ってくる。
ナオは笑って「おおきにな」と返す。
そして──彼の視線は、あのベンチへと向けられた。
観覧車のふもと。飲食ブースの脇に、ぽつんと置かれたベンチ。
毎日、決まった時間にそこへ座る少年がいる。
黒髪で痩せっぽち、制服のような白シャツと黒ズボン。
いつも誰かを待っているように座っていて、話しかけても返事はない。
ただ、ナオの顔だけをじっと見つめてくる。
「……また、おるな」
そして気づいた。
他のスタッフや客たちは、誰もその子に気づいていない。
ナオはそっと、視線を下げてその子の隣に座る。
「……名前、なんて言うん?」
少年は何も言わない。ただ、手に握られた一枚のチケットを見せる。
日付は、3年前の日付だった。
ナオの胸が、ひやりと冷たくなる。
「3年前……それって、火災事故があった時やんか」
少年は、ようやく小さくうなずいた。
そして、つぶやくように言った。
「おかあさんに、ここでまっててっていわれた」
ナオは、言葉を失った。
火災事故──3年前、パークの一部が工事中に発火し、来場者の一部が避難。
幸い死者は出なかったとされていた。だが、その後「迷子のまま行方不明になった子がいた」という噂が残っていた。
おそらく、この事故も黒瀬の実験に関連して起きた事故。それを工事中の発火にしてるだけやと思う。
「……君、名前わからんのか?」
チケットの裏面には名前が書かれた痕はあったが読めなかった。
少年は、うなずく。そして、ナオの手にチケットをそっと渡した。
次の瞬間──少年の姿は、そこから消えていた。
そのチケットだけが、ナオの手の中に残されていた。
次回「第2話:失くされた名前」では──
ナオは少年の記憶をたどるため、園内に残された“ある音声ガイド”と再会。




