1章の3 子虎は名前をもらう
「……!」
目覚めはいつも悪い。必死に叫ぼうとして、声が出ると自分の声で目が覚める。
でもその夜は、いつもと違うものを感じた。
頬に定期的に何かが触れている。そして胸元が重い。
「おまえ……」
手を伸ばすと、ふかふかとした毛並み。
月明かりに照らされた、違和感の原因を眺める。
一月ほど前に拾った虎の子が自分の頬を舐めていた。
晨風は少し驚いた。こんなふうに、向こうから積極的に晨風に触れてくるのは初めてだった。
この子虎は、拾ってきてすぐはずいぶん晨風を警戒して、噛みついたり威嚇したりしていた。それでも生傷を作りつつ、体温を維持させるために一緒に寝たり、牛の乳を与えたりしていたのだが、やっと敵意がないと認識したようだ。
持ち上げると、虎の子は宙に浮いたことに不安になったのか、足をばたばたさせる。すぐ足がつくと思っているようだ。
そのたどたどしい足の動きが愛らしくて、晨風は思わず微笑んだ。
「あー、おまえ。おまえか。うん。名前をあげようね」
長くはそばに置かず、いずれは山に戻すつもりだったが、それでも呼び名がないのは不便だと、ここ最近思っていたところだ。
叱るときにも、おまえでは様にならないし、まあこの大きさのうちは自然では暮らせないだろう。
「虎……虎、虎虎でいいか。虎虎、これがおまえの名前だよ」
わかっているのかわかっていないのか、大きな金の瞳がじっと見つめてくる。
晨風は虎虎と名付けたその子虎の額に、自分の額を押しつけた。