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2章の7 李晨風は眠る王星宇に話しかける

 相変わらず、花の香りが濃い。

 晨風は十郎に案内されて、見覚えのある部屋に通された。部屋のつくりも、以前とまったく変わっていないようだ。


「星兄さん?」


 遠くで腰かけたままの星宇を見つけて、晨風は少しだけ微笑んだ。座ったまま頬杖をついて、どうやら眠り込んでいるようだ。


「相変わらず、仕事が好きですね」


 膝の上に開いたまま落ちそうになっている書類を取り上げると、机の上に戻した。

 そのまま、じっとその寝顔を見つめる。起きているときは迫力があるが、こうやって眠っていると、幼い少年のような雰囲気もあって、晨風は思わず微笑んでしまう。

 憧れていた少年のときの彼を思い出す。いつだって、余裕があるように微笑んで、焦った姿など一度も見たことがない。

 一緒にいると、自分の方が未熟に思えて、いつも少し辛かったと思い出す。武芸でも、勉強でもそうだった。

 星宇は人一倍がんばりやだったし、負けず嫌いだった。彼がそうだったのは、たくさんいる兄弟の、最後の子供だったことが影響しているのだろう。たくさんの優秀な兄たちと比べられて、彼は、誰にも負けることができなかった。

 だからこそ、自分がかわいがられていたともいえる。自分はいつまでも、彼の後ろを歩いている弟のような存在だったから。


「それなのに負けてしまって、あなたは今おつらいのでしょうね」


 寝顔にささやいた。さっき、承王子を擁するなどと言ったのは、彼のその負けず嫌いなところなだけではないのか。本当に、光帝に逆らって、勝てるつもりなのだろうか。いったいどれくらいの兵がいて、どれくらいの反乱を起こすつもりなのか。

 いや、知ったら後戻りはできない。関わりたくないのなら、聞き出さない方がいい話なのだが。


「私は兄さんが負けるところなんて、見たくありませんよ」


 晨風はため息をつく。改めて振り返ると、自分は彼を止めたいのだという気がした。もう変わってしまったことは変わってしまったこととして、新しい世界に生きていってほしい。

 でもきっと、自分が止めたらこのひとは絶対に後には引かないだろう。そういうひとだ。

 そう思って、晨風は苦笑する。山で人間と関わらないで生きているなんて、自分もだいぶ、世の中が変わってしまったことを受け入れていない方の人間のはずなのだけれど。

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