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剣先#2(第80話記念作品)

〈定まらぬ氣温に春は蠢けり 涙次〉



【ⅰ】


 楳ノ谷汀は特番を組んだ。題して「カンテラ・スペシャル カンテラ一燈齋が語り盡くす、【魔】退治人生!!」。質問者・楳ノ谷に對して、回答者、カンテラ・じろさん・テオ。今までになかつた、一味の中核メンバーへのインタヴューである。


「こちらが(云はずもがなですが)最近、神田寺男と云ふ人間名で戸籍取得なされた、カンテラ一燈齋さん。そのお隣りがカンテラさんの右腕、古式拳法の達人・此井功二郎さん、そして人氣小説家、谷澤景六としても知られる、カンテラ一味の情報収集係、猫のテオさん」


 楳「今まで戦つてきた中で、一番手強かつた敵つて、どんな【魔】でした?」カン「さうですねえ。伊達剣先と云ふ、私のコピーを魔界が送り出してきた時には、少々手こずりましたが」本当は間司霧子、と云ひたかつたが、それはNGワードである。要らぬスキャンダルが起きるとも知れない。


 と、そんな感じで、ぬる~く番組は制作された譯だが、視聴者からすれば、實地に【魔】と対峙してゐるカンテラ一味のあり(やう)を身近に感じる、良い企画である。視聴率は20%の大台に昇つた。



【ⅱ】


 こゝに、鷹町健司(たかまち・けんじ)と云ふ男がゐた。下町精密機器部品工場「鷹町精密機器株式会社」なる會社の総帥、オーナーであり會長である。彼もこの特番は観てゐた。


(訊けば、伊達剣先製作の腹案は、につくき安保宙輔が練つた物らしいではないか。これを再生して、奴に一泡吹かせる事は出來ないものか)-彼は、安保さんの勤める、「(株)貝原製作所」に異様な迄にライヴァル心を抱いてをり、貝原が一部上場すれば、それを眞似たかの如く、自社も上場させる、などそのライヴァル心を剥き出しにしてゐた。貝原製作所の會長・貝原文嗣はそんな彼をすつかり無視、勢ひ、鷹町の関心は、貝原の右腕である、安保さんへと流れた。勿論、安保さんが、カンテラ一味と関りが深い事も知つてゐた。


 鷹町、どこでその情報を得たかは知らぬが、闇の市場で、伊達剣先のなれの果て、今はたゞの屑鉄に過ぎない遺骸を買つてきた。これを再生し、カンテラ一味を打ち負かせば、きつと安保は忸怩たる思ひを抱き... など、鷹町の妄想は止め処ない。


 結局、鷹町の云ふ通りに動く、伊達剣先#2は完成し、後はカンテラにぶつけるだけ、となつた。



【ⅲ】


 剣先#2は、正面切つて、カンテラの行き路に現れた。カン「おやおや。あんた迄蘇生かい。誰の仕業かは知らんが」カンテラ、鷹町の事などは、記憶の埒外にあつた。


 剣先は、要するに、カンテラのロボット版である。カンテラ、そして心配して着いてきたじろさん、とで事に当たる。完膚なき迄に滅ぼしてしまはないと、後の世、だうなる事か知れぬ。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈偽剣士一本差して闊歩するあの人の後ろ姿を眞似し 平手みき〉



【ⅳ】


 カンテラには、だが勝機は見えてゐた。相變はらず、いゝ加減な差し料を提げてゐる剣先(鷹町には、剣の道についての知識が欠けてゐた)。それに比して、傳・鉄燦の二本差し(剣先は、古いヴァージョンのカンテラのコピーなので、一本差しである)なカンテラ。それは大きな差である。


 剣先#2が剣を拔いた。カンテラ長刀をがつぷり四つでぶつける。ぎりぎりと剣の触れ合ふところ、靑い火花が散つた。ところが... 剣先#2には、自己修復能力が備はつてをり、前回の「負け」の理由が、彼の頭脳を駆け巡る... 剣先は足払ひを仕掛けてきた。


 虛を突かれたカンテラ、やゝ態勢は崩れ氣味である。我慢出來ずじろさん、助太刀。「指彈」を使つて(指彈については、遷姫に貰つた中國拳法の極意書に書かれてゐた。じろさん、研究に研究を重ねて、今の彼がある)剣先の片目を潰した。指彈、と云ふ技は、親指で彈いて勢ひよく、パチンコ彈のような小さな球體を飛ばす術。じろさんのやうな達人なら、それで鉄壁でも穴を穿つ事が可能、である。


 それで勝敗は決まつた。カンテラ、大上段より太刀を振り下ろし、鋼鉄製の剣先を、(兜割りの要領か)眞つ二つに斬つた。「しええええええいつ!!」更にカンテラは、脇差しを使つて、剣先のロボットの躰を無茶苦茶に壊した。剣先、もはや再生は叶はぬ、スクラップ狀態、である。



【ⅴ】


 と云ふ譯で、鷹町健司の惡だくみを葬り去つたカンテラ。この模様は、杵塚がしつかりキャメラに収めてゐた。後に『カンテラ・此井の實践退魔術』と云ふソフトとして、發賣。下手なアクション映画よりも面白い、と云ふ事で、これが大賣れに賣れ- カンテラ一味にがつぽりと印税を齎した。


 鷹町は、そのヴィディオ・ソフトを買つて、初めて己れの負けを知つた。嫉妬に目が眩んだ技術屋。安保さんのやうに仲間と呼べる者がゐない彼は、それでも安保さんへの敵愾心で、自分の立つ瀬と云ふものを築いてゐた譯で... 人間とは、可笑しなものである。



【ⅵ】


「いや、指彈お見事」「余計な助太刀だつたかなあ」「まああの場では仕方ない」などゝ、カンテラ・じろさんコンビ。この二人組、本当に無敵やも知れぬ。

 この一件(ヤマ)で、楳ノ谷の番組出演料、礼金(髙視聴率に對する)、と先のヴィディオの印税、併せて、カンテラ一味健在と云へる髙収入を、彼らは得た。めでたし、めでたし。



 ⁂  ⁂  ⁂  ⁂


〈北國の少女の坐せる(いち)の春 涙次〉



 ぢやまた。

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