師匠逃げましょう
エルフが試験管を片手で、ゆらゆらと揺らしながら
ミトラの傍に戻ってきた。
試験管の中には得体の知れない金色の液体が、
彼が歩く度に揺れ動いていた。
彼はぶつぶつと呟きながらミトラの口を、一方の片手でこじ開けた。
「分からない。この世界は何なんだ?
何故こうも、同じ種族と生命だというのに、差があるんだ。クソ。クソ」
ミトラは言葉を発しようと、抵抗したが舌を抑えられていて何も出来なかった。
彼女の実力ならば振り切ることも、拘束も意味の無い物なのだが、彼女は王家との呪い【絶対服従】に縛れている。
これは何世代にも渡り、ミトラの力を恐れた王が
呪いをかけ続けたためである。
最初は気付かれないほどの小さな思念が、いつしか
彼女をも屈しさせるに至るほどの呪いとなっていた。
そしてエルフがその液体を、ミトラの口に流し込む。
その時ユリウスが、また立ち上がり攻撃をしようとしたセレーナを止めた。
「魔女セレーナ。落ち着いてください。この状況で攻撃は...」
「うるさいよ勇者ユリウス。君は遅すぎるの決断__」
セレーナがユリウスに怒りをぶつけようと彼の方を向くと同時に、彼女の背後で、ミトラが呻き出した。
「う...っ、は...は...」
「師匠!」
セレーナは思わずミトラの元へ飛び出した。
彼女は震える師匠の頬に、同じく震える自身の手で触れた。ミトラはしっかりと、覗き込まれたセレーナの目を見たあと、気絶したように眠りについたように見えた。
「師匠...?」
その時一部始終を見ていたエルフがセレーナに声をかけた。
「邪悪な気配は貴方でしたか。魔女セレーナ。
人間の分際で、始祖の弟子とは、前々から忌々しかったですが、今日は良いものが見れました」
彼氏は綺麗な面を歪ませ、恍惚とした表情で
ミトラと、ミトラを抱くセレーナを見つめた。
彼の金色の瞳が輝く。
「貴方!よくも!」
セレーナは杖を生成し、くるくると杖を回し手で掴んだ後、エルフに向き合った。
彼女が杖を生成すると同時に素早く詠唱を呟くと魔法陣が展開され、炎そのものとなった数本の剣の先がエルフに向いた。
彼女の戦闘態勢から、攻撃が成されるまで
わずか2秒にも満たない。
王家のエルフはそれなのに余裕そうに微笑んだ。
「やはりすべきものは準備。全てを予想していました!【大罪系魔法 束縛の檻】」
彼が話すと同時にセレーナとミトラが居た位置に
赤い魔法陣が展開された。
「設置魔法!?最初からここに魔法を展開していたの?!」
セレーナが眉をひそめながら慌ててミトラに抱きついた時、すでに彼女達が居た痕跡は地下に何も残っていなかった。




