死にたくない
しかしヴァルナに言われたからといって
すんなり出来ると考えるのは間違いである。
俺が過去に使った風魔法や土魔法は
魔法というより置き換えに等しく、魔力を別の物として放出しただけのように感じられる。
ララエルもミトラも魔法名を口に出していた。
よって俺も口に出してみたらどうだろうか。
アロは螺旋階段に身を潜ませながら手を突き出し言葉を放った。
「時空間魔法」
しかし不発である。
「時空間魔法!!」
アロは焦ったのかさらに大きい声で喋った。
すると廊下を並んで警備していた衛兵2人が振り向く。そして、そのうちの1人が螺旋階段の手すりの隙間から覗く人影を見つけた。
アロはこちらに向かって歩いてくる彼らを見て
「最悪だ」と呟いた。
そしてアロは隠れるのをやめ、堂々と姿を現した。
アロは自身の姿を見て、
「ぁ...」
と言葉を漏らした衛兵2人を見た。
彼らは心底アロに陶酔していた。
彼らは数秒、アロを見つめた後我に返ったのか
剣を鞘から引いた。
目にも止まらぬ速さで俺にかかってくる衛兵を見た。
彼らの連携は完璧であり、かろうじて避けたものの
頬を切られたのを感じた。
廊下の白い大理石な床に俺の血がぽたりと落ちた。
「え」
衛兵は俺が声を放つのを見て警戒したのか身を引いたが剣の先は未だ俺に向けられていた。
衛兵らは見惚れていた。
目の前にいる絶句するほどの美しい人間が
自らの技により、頬からその鮮やかな紅い瞳と同じ、鮮血を流したからだ。
それらの情景は極めて神秘的であり、彼らは神のように美しく見えるアロが流す血に興奮まで覚えた。
その時アロが感じたのは、生まれてきて初めて感じる命の危機感であった。
普通の人間は、この世界の人間ならまだしも
彼は普通に過ごしていて、人に剣で頬を切られる事も
こんなにも明確に殺意を向けられた事も無いからだ。
彼は顔面蒼白になりながら両手を広げ、彼らに向けた。そして攻撃を仕掛けようとした。
アロにできる事は、手から水を沸かせる事と、
土を生成する事と台風を作ることであった。
しかし台風は自身で止める事が出来なかったのが難点であり、この廊下でやるには被害が大きすぎる。
アロは左手を握りしめた。
すると廊下左側の壁から廊下の縦幅を埋める程大きく
硬い土石が左手側にいた衛兵に向かって飛び出し生成された。
しかし衛兵は軽くそれを避けた。
そして彼らは互いに意見を交わした。
「無詠唱使いか!」
「ふん。早く終わらせよう」
彼らが連携を取りアロに向かって同時に走ってくる。
アロは右手を焦ったかのように力強く握りしめた。
彼らを押し潰す勢いで壁から鋭利な土石が生成される。しかし彼らを止める事は出来ず、刃がアロの首へと届かんとしていた。
アロは照準を合わせて彼らに鋭利な岩を放った。
しかしアロの攻撃は全て避けられている。
ならば避けられなくなるまで速くすればいいのだ。
アロは彼らの攻撃を体を捻らせ避ける。
衛兵の剣が俺の足を切った。
もっと攻撃を速く。
衛兵の剣が俺の肩を切った。
もっと攻撃を速く。
速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く速く。
アロは目を固く閉じた。
アロを中心として周りに様々な方向から、光速をも超える速さで岩が生成され消えを繰り返し、城の壁、扉、衛兵を破壊し無惨に押し潰す。
その速さでアロの銀髪が風に舞い、アロの額の汗を吹き飛ばした。
その美しい銀髪が赤い鮮血に染まり、
彼がその瞼を開いた時には衛兵2人の跡形もなかった。




