プロローグ
「本当にするの?」
1人が問う。目先には銀髪を靡かせて崖上に座る
不自然な程完成された美を纏う少女がいた。
それは崖下で行なわれている紛争を緩満に見ていた。
片手には7色に輝く美しい剣がある。
少女は小さく頷いた。
▽
咲きほこる草花と美しい景観の中心に大きい塔があった。
しかし周りの幻想的な雰囲気とは違い
その塔は禍々しい雰囲気を感じさせていた。
その塔を住処にしていた燃え上がる炎のような強い深赫の短髪の男がいた。
その頭には半透明の白いヴェールが被せられている。
彼は塔内部の小さな部屋で止むことなく呪文を唱えている。
部屋は元々、広い空間だったが、
今や彼によって壁という壁を埋め尽くす紙が貼られていた。
紙には1枚1枚それぞれにおびただしい程の魔法陣が描かれている。
その時男がペンを握った手をはしらせて
散らばった紙の1枚に長い計算式を完成させた。
そして男はその紙を手に持ち床に、人が収まる程の大きさの魔法陣を作った。
彼は魔法陣の上に腕を差し出した。
その腕は切られた傷で痛々しい程荒れていた。
彼はその傷口の上から再度ナイフで自身の手を切った。
その美しい腕から血が溢れ、跳ね返った血が彼の白いヴェールに付きそうになったが、たどり着く寸前に弾け飛んだ。
狙った通り魔法陣の上に彼の血が落ちた。
しかし魔法陣に変化はなく不発のように見えた。
彼は舌打ちをし、魔法陣を足で揉み消した。次に彼は手に持っていた紙を炎で消し炭にした。
そして悔しそうに顔を歪ませて言うのだ。
「また、ダメだったか」
▽
とある日本人の男子高校生がいた。
彼は至って普通の高校生であり
平凡な日々を送っていた。
気だるげな毎日だった。
そんな彼には最近悩みがあった。
数週間前から物忘れが激しくなったのだ。
だが彼は能天気な性格であったため深く気にしていなかった。
下校中だった彼はコンビニで買ったポテチを食べながら通学路の歩道を歩いていた。
ふと彼が自身の足元を見ると歩道の
コンクリートの切れ目に生えている雑草がほとんど枯れているのに気づいた。
軽く目にとめた後、止まることなく自身の家へと歩き続けた。
彼は気づいていなかった。
その場所だけ枯れていたのではなく、
自身が歩いた場所の草花が枯れている事に。
同時に、赤髪の男も気づいていなかったのだ。
彼が揉み消し潰れた魔法陣が彼が塔を去った後、
微かに弱い光を発した事に。
彼が家に着いた後の夜。
風呂上がりの彼はベッドに寝転んでいた。
今日に限って何故か体がだるかったのだ。
彼は瞼が重くなりすぐ眠りについた。
しかし次に目を覚ました時、見えた光景はいつも通りの朝ではなく彼の部屋が7色の光に溢れ返る事になっているとは彼自身も思いもしなかったのだった。