ネイル 宝石 キラキラ
カラー・コンタクトをつけているのかもしれないし、裸眼なのかもしれない。そんなことすらも謎めいている──まぁつまるところ、あたしがただ、そのていどの事柄すら気安く質問できる関係値を築けていない、というだけの──宝石みたいに綺麗な瞳をした彼女は、ふいに、無邪気な子どもみたいに幾度か瞬きをして。やけにドラマチックに、まるで今からキスをする恋人のような距離感で、あたしの顔を覗き込むなり言ったのだ。
「ねえ、宿題忘れちゃった」
「……は?」
それがあたしと彼女の、最初の会話だったんだけど。
無駄に仰々しく、なおかつ拍子抜けをするような幕開けだったわりに、それから開始したあたしと彼女の交流は、特筆すべきこともないくらい普通だった。というか彼女はたぶん、一挙手一投足が様に『なりすぎる』だけなんだろうな、と今となっては思う。誰もの目を惹く、恵まれた美貌。手脚もスラッとしていて、あぁ、まさにこういうひとを美人って形容するんだろうな、と納得しない者はいないであろう麗しさ。ただ、これも最近知ったことだけど──舞台上の演者みたいな彼女はどうやら、それゆえに、普通に生きることを周りに許されていないらしい。学校の外では家族から常に監視されていて、家に帰れば軟禁状態。でも学校の中ではいつでも注目されていて、やれあの女の子の好きな男を盗っただの、教師に色目を使っただのと陰口を叩かれていて針のむしろ。だというのに、彼女はそれに無自覚なんだから、あたしとしては対応に困る。だって今もほら、彼女はスマートフォンで、キラキラしたマニキュアを注文しようかと思案していると言うのだ。それ以上目立っても良いことなんてないだろうに、しかし決して何もかもを喰らい尽くそうとするような強欲さですらなく、ほんのお茶目な我が侭さで。
「どうせね、剥がせ、って生活指導がうるさいだろうから。ネイルサロンに行ったほうが、オフしづらくて良いかなぁ、とも思ったんだけど」
言葉の続きを促すべく、肩を竦めただけのあたしに──彼女は、ひどく楽しげに。
「マニキュアにしたらね、きみも塗れるでしょ」
──なんでそうなるのってば。巻き込まないでよ、あんたの問題行動に。なんて、あたしが憎まれ口を叩こうとしたことさえも、おそらく先読みして笑った。
「ていうか、わたしが手ずから塗ってあげよっか」
どうしたって有無を言わさない、あまりにも可憐な威圧感。
「きみがわたしにずっと憧れてて、今も憧れてるの、知ってるんだから」
そして実際、これが羨ましくないわけがないので──
今この瞬間、あたしも近い未来の生徒指導室行きが決定したのだった。




