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8.クリーナ殿下の推理

 

「…え?」

 私は意味が解らなくなっていました。

「順を追って説明しましょう。

 まず、公爵令嬢…大御所様の話からすると、『サーラ様』ですね。

 彼女は元々王太子の婚約者だった。

 しかし、王太子とはあまりうまくいっていない中で、例の妙な部屋に療養していた公爵夫人の母上が亡くなった…ここまではいいですね」

「はい」

「そして母を亡くして失意の中にいてしばらく療養するためあの部屋に移る…そして外に出られないうちに、婚約者の王太子は、見目麗しいが狡猾な男爵令嬢と懇意になる…それを友人の話として聞いてしまった公爵令嬢は更にショックを受けて心を病みます。

 その二つの傷を負った時に、瘴気が一気に精神力を奪い、鬱状態と躁状態を繰り返す心の病なってしまい、ある日部屋を抜け出して王城に向かう…。

 その王城で、男爵令嬢を抱えた王太子に『なぜ来たんだ!』となじられ、大衆の前で婚約破棄を言い渡される。

 そして持っていた自害用の短刀で、王太子を刺殺…パニックを起こした男爵令嬢は逃げまどい、騒ぎを聞いた近衛騎士団が駆けつける前に王太子を刺した短刀で、公爵令嬢が自害する…」

「そ、そんな…けど、なんで…」

 私はその大胆な推理に衝撃を受けました。

「そして、その原因となった瘴気ですが…あの森には70年前であれば少しずつ瘴気が発生源…そのナバーリス公爵家が浄化した瘴気爆発の地点、から漏れていたのでしょう。

 その瘴気は風に乗って公爵家に向かいます…そして、瘴気は風で運ばれます…しかし、あの部屋には、窓が二か所、森に近い2方向にしかありません。

 本来は、あの部屋から廊下に抜けるドアがあり、それを開ければ瘴気は廊下側から窓を伝って空気に運ばれます。

 しかしあの部屋の本来ドアがある角には空気穴のようなものもなく、石造りの壁にされてしまい、空気が通りません。

 そしてあの部屋には、瘴気が行き場を失い、そしてその下流にあるベッドで寝ていた人物に影響を与えます」

「…で、ですが」

 その推理はあの部屋の住人のみに影響があるこの王太子刺殺事件の状況に見事にマッチしていました。

 しかし、瘴気は魔力、精神力、体力を失わせた際に反発する力として消えていきます。

「…瘴気は彼女から精神力を奪い、少しずつ消えていきます。

 だから溜まっている瘴気は、少しずつ彼女の精神力や体力を犠牲に少しずつ消えていきます。

 しかし、朝、彼女の侍女が部屋に入ると彼女はこういうのです」

 そこでクリーナさんは紅茶を口に運ぶとこう続けました。

 

「お部屋の換気を致しますね」

 

「…じゃぁ」

「ええ、侍女が朝入ってきて空気を入れ替えようと窓を開けると、再び風によって運ばれてくる瘴気がこの部屋に溜まる。

 あとはその繰り返しで、休むことで体力を回復できても、精神力は王太子と母の問題で回復でき切らず、精神をどんどん病んでしまい、それであんな事件を起こしてしまったのでしょう…」

「…そんな…」

 終わってみれば、だれにとっても痛ましい事件ということになりました。

「ただ…当時の国王陛下は、気づいていたのかもしれません…。

 公爵令嬢が瘴気で精神を病んでしまったことを」

「…え?」

 またも意外なことをクリーナさんは言い始めました。

「調べてみたら、公爵令嬢が王太子を刺殺するという事件だったにもかかわらず、公爵家には当初そこまで大きな罰が与えられる様子がなかったのを、娘の不祥事ということで公爵側から平民になるという申し出があって国王陛下はそれを止めようとして伯爵への降爵で済ませようと画策した形跡がありましてね。

 結局、子爵への降爵で折り合いがついて、自身が持つ子爵位を使って公爵家が断絶した…ということらしいですよ。

 …僕も当初、没落していたと思ったのですが、どうやら別の名前の子爵になったので、没落したという扱いになっていたようで、国王陛下はその公爵にとても信頼を置いていたのがわかります」

 そこで一度クリーナさんは言葉を切り、咳ばらいを一つして続けました。

「それに対して、男爵家は娘が王太子を誘惑した、ただそれだけのことで当初は男爵令嬢を処刑しようとしたらしいですよ。

 男爵が爵位を捨てることで娘の命を助け、地方に幽閉することにしたらしいですよ。

 …娘のほうは納得しなかったと思いますが」

「…あー」

 何か納得してしまいました。

 そういう人物は王太子を婚約者から寝取ったうえ、目の前で王太子を殺された被害者(・・・)として同情を誘うために周りに涙目で助けを求めてそう…という偏見を持ってしまいました。

「…そうしたことから、信頼の厚かった公爵の娘がおかしくなったのは、王太子が原因で、しかもあの森は瘴気の濃度が高い傾向があることをつかんでいた国王陛下はその影響を疑っていたそうですよ…今の国王陛下が先代から聞いた話ですが」

「…そう、なんですね」

「まぁ、僕の妄想ですよ?

 聞いた話以外は、すべて、ね」

 そういってクリーナさんは力なく笑いました。

 その様子は、クリーナさんが今朝剃ってこなかったためにあるであろう無精ひげも相まって、少し年を取ったような顔をしていました。

 

 ~the end~

 


というわけで完結…ですが、一つ心残りがあるので、最後に閑話投稿して完結です。

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