表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/10

7.屋敷裏手の森

 

 クリーナさんに送っていただいて家に帰り、部屋に戻ろうとしたときでした。

「お姉様、お帰りなさい」

「ヤマカ?

 帰っていたのね、ええ、ただいま」

 そこには久しぶりにこちらに戻っていたヤマカが声をかけてきました。

「そうそう、例のタウンハウスの件だけど…」

「あ、あのお屋敷?

 買うのやめたのよ…それを言いたくてお姉様を待っていたの」

「…へ?」

 大御所様の話にしろ、妹の「買うのをやめた」話にしろ、今日は重い話が多いなと思ったのでした。

 

「あのお屋敷、買うのをやめたの?

 急にどうかしたの?」

 どのみち、公爵令嬢の話をまとめた上で、買うのはやめた方がいいとアドバイスするつもりではありましたが、その情報なしに妹のヤマカたちは屋敷を買うのをやめたということで、理由が気になりました。

「あのお屋敷の裏手に森があるの。

 あの森、いわくつきみたいなのよ」

「森の曰く?」

「そう…と言っても別にアンデットのモンスターが大量に出るとかそういうわけじゃなくて…。

 ジェームスがナバーリス公爵家の歴史を調べてた時に偶然、資料を見つけたんですって。

 あの森の瘴気を払ったって資料を」

 ナバーリス公爵家は、教会とのつながりがある家で、何人か聖女や聖職者を出している家系になります。

 そのため、大規模な瘴気を払うといったお仕事も数年~十数年に一度程度行ってきており、ヤマカの婚約者・ジェームスが継ぐバッディス伯爵位はその瘴気払いの管理をするのも仕事の一つになるという話でした。

「あの森の、瘴気?」

「そう…なんでもあの森の近くで300年以上前に大規模なスタンピードが発生して、多くの魔物があの森で倒されたらしいの。

 そしてそれに対処した王国側の兵士にも結構な被害が出て、悲惨な有様になったようなの」

「…そう…けど、300年以上前の話じゃ…」

「それが…30年位前に、払ったはずの瘴気が爆発して、あの付近一帯に瘴気が立ち込めたらしいわ。

 その時の瘴気払いの資料をジェームズが見つけたんですって…そう考えるとあの森の瘴気爆発が起こらないとも限らないし、あの屋敷を買うのはやめようって話をジェームズとしたの。

 おさわがせしてごめんなさい、お姉様」

「いえ、大丈夫よ…私としてもあまりお勧めできそうもないと思ったから、よかったわ」

 そして私たちはヤマカと最近の情報交換をして部屋に戻りました。

 

 自室に戻ると、最後の仕上げとして、あの屋敷に関する情報をまとめることにしました。

 まずあの屋敷は、70年前の王太子の婚約者で、王太子刺殺事件を起こした公爵令嬢が住んでいたいわくつきの屋敷で、例の「ドアのない部屋」はまさにその公爵令嬢が、王太子の不貞と、公爵夫人である母を失ったという二つのショックを受けて療養するために入った部屋ということでした。

 そしてその部屋のすぐ裏手にある森では、300年前~30年前まで瘴気が漂っており、30年前に起こった瘴気爆発によって瘴気払いをするまでは、少なくとも瘴気が漂っていた可能性があります。

 つまり、あの部屋は、瘴気の影響を受けやすくなるのでは?

 そして、公爵夫人はあの部屋で療養(・・)することで元々持っていた病気の悪化させ、心に傷を負っていた公爵令嬢は心を病んで…。

「…けど、あの屋敷に一緒に住んでいたはずの公爵様や嫡男、使用人には影響は出てないしなぁ…」

 そう、あの部屋に住んでいた夫人と令嬢のみが影響を受け、それ以外の人物に影響がないというのが不可解な点なのです。

 そこからどうしても、あの部屋と瘴気の関係がわからず、翌日、クリーナさんに相談しようと思い、その日は寝ることにしたのでした。

 

 翌朝。

「クリーナさん、先日はありがとうございました。

 わざわざナバーリス公爵領迄送っていただいて」

「いえいえ、あのくらい大したことないですよ。

 大御所様、お元気なご婦人でしたね」

 クリーナさんはそういって笑いました。

「それで…あの話の後、ヤマカと少し話をしまして…」

 私はクリーナさんにヤマカが件の屋敷の購入を取りやめるというのと、ナバーリス公爵家が30年ほど前にあの森の瘴気を払ったという話をしました。

「あぁ、妹さんのほうからあの屋敷をあきらめてくれたのなら、話は早いですね。

 僕としては最初からあの屋敷はいわくつきってことでおすすめはしなかったので」

「そうですね、私もあきらめてくれてよかったと思います」

「それで…この件ですが、そろそろ片を付けてしまいましょうか」

「…と、言いますと?」

 クリーナさんはいつもの微笑みのままではありますが、かすかに目を細めて決意したように言いました。

「以前、ヴィッツさんが言っていた、瘴気と公爵令嬢の話について再度僕も検証したんです。

 もちろんあの部屋の直下に瘴気があるという説は否定しましたが、それ以外は再検討の可能性があると思っていたので」

 以前私は、公爵令嬢様が豹変したのは、あの部屋の直下に瘴気がたまっており、お母様を亡くし(と同時にもしかすると王太子の不貞も含めて)、精神が弱っているところに瘴気に充てられて性格が激変してしまったと仮説を立てました。

 しかし、あの部屋の直下に瘴気がたまっていてそれに充てられて豹変したと考えるには、彼女が正気を保っていた時期も長いし、それ以外にあの屋敷に住んでいた公爵様や嫡男、使用人に影響が及ばなかったことを考え、この考えをクリーナさんに否定されていました。

「…はい、確かに、そうですね」

 

「あれ、もしかすると正解の近くにあるかもしれませんよ」

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ