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4.瘴気と魔力

王太后様の先走り。

やはり王太后様とはいえ未婚の息子のことは気になるようです。

 

「ヴィッツ、お前王太后様と何を話したんだ…」

 数日後、仕事から侯爵家に帰るとお父様から開口一番、疲れたような顔で話しかけられました。

「…王太后様と…?

 お仕事で必要な情報を教えていただいただけですが…」

 正直にそう答えると、頭を抱えていたお父様が「じゃぁこれはいったい…」とさらに頭を抱えてしまいました。

 そういって王家の蠟封がされた一枚の便せんを出してきました。

 差出人は王太后様、宛先は…私?

「…あの、これは…」

「先ほど王城に所用でうかがった際に、第二王子殿下から預かったのだ。

 お前が王太后様とこないだ話していたのは聞いていたし…何か粗相したものだと」

「…(粗相したと決めつけられるのは失礼だなぁ)」

「…とりあえず開けてみろ。

 何かしらの請求があれば、私に言いなさい」

「…はい」

 そういって私は便せんを受け取り、その場で開けました。

 中に入っていたのは…。

「…舞台の、チケット?」

「…何?」

 横で聞いていたお父様が少し体勢を立て直し、こちらを覗きこみました。

「…手紙…」

 

『ヴィッツ・ロードン 様

 

 先日はわざわざこの年寄りの元を訪ねてくれてありがとう。

 その件でおそらく参考になるであろう舞台がありましたので、一度見てみるといいわ。

 マッドにも同じものを送っているので一緒に行ってみて頂戴。

 

 マーガレット・ノーソリア

 

 PS マッドをよろしく』

 

 マーガレット・ノーソリア様…つまり、王太后様からの手紙も同封されていました。

 そのチケットは「アベリアのほほえみ」という王都で人気の舞台のものでした。

「…?」

 私の頭にはたくさんの疑問符が浮かびました。

 

「あぁ、母上から来ていましたね。

 舞台には興味もないんだが…君の元にも届いているのならエスコートしないとですね」

 翌日、博物館でクリーナさんにお会いすると、そういいながら笑っていました。

「…なぜ王太后様はこの舞台のチケットを?」

 舞台など見に行ったことのない私が不思議に思っていたことを聞くと、意外な答えがクリーナさんから帰ってきました。

 

「あぁ、この舞台…例の王太子刺殺事件を題材にしたものだからですよ」

「…えっ?」

 

一瞬目が点になりました。

「これは王太子刺殺事件の原因の一つである、男爵令嬢側のある種の美談(・・)を題材にしている舞台です。

 美談というのは…いや、筋を話してしまうよりはこの舞台をみてもらった方がいいでしょう」

「そうですね…でも、クリーナさんはお忙しいのでは…?」

「いや、母上から直々にいくように言われていましてね…これは君をエスコートしないといけないようですね」

 そういって「母上は強引なんだから…」とブツブツ言っていましたが、これは例の事件を知る糸口としては最適なもなのではないでしょうか、その時の私はそう思ったのです。

 

 その日家に帰ると、珍しい方が家にいました。

「…お姉様、お帰りなさいませ」

「あぁ、ヴィッツ…ええ、ただいま」

 第二王子の婚約者として今を時めく姉、ノーラが家に帰ってきていました。

 数週間前から王城に住み込み、王子妃教育を受けているので、しばらく家には寄り付いていませんでした。

「ヴィッツ、何やらヤマカから面倒な頼まれごとをしたらしいわね?」

 なぜか久しぶりに会ったお姉さまは妹のタウンハウスの件を聞いてきました…なぜか嬉しそうに。

「面倒、というか…まぁお仕事の延長線上と思ってやっています。

 この件は給金には反映されませんが」

「はぁ…いうことが所帯じみてるわね…」

 姉はため息一つつきました。

「そういえばお姉様。

 最近王妃様教育はいかがですか」

 姉は第二王子の婚約者でもあり、いざという時のスペアということもさることながら、通常であれば王太子の補助として、宰相や財務卿などの要職や、大公など臣籍降下して領地経営などで国を支えていく立場であり、その婚約者であるお姉様も、王妃教育を王太子妃とともに受けることになっていました。

「…王妃教育から一次の休息をとるために帰ってきた姉に、その質問をするのかこの妹は…。

 けど、最近面白かったのは、魔力と瘴気の話ね」

「…瘴気? あの、『万病のもと』ともいえるあの瘴気ですか?」

「それ以外に何があるのよ?

 瘴気ってのは…」

 

 姉は王妃教育で教わった瘴気について教えてくれました。

 瘴気とは、「魔力の対になる存在で、人間が大量に摂取するとまずは魔力を吸収し、その後は体力、精神力などを全体的に奪っていく」というものだそうです。

 つまり、魔力を持っていなければ体力や精神力を奪っていき、死に至らしめる厄介なもの、ということになります。

 

「…で、瘴気っていうのは魔物や強い怨念をもつ人間が弔われずに死んだときに発するものなんだそうよ。

 死んだ人間から出る瘴気は、その怨念が強いほど強力になるそうよ。

 しかも、その昔魔物が多く出現したこの国は、空気中の瘴気が他国に比べて少しだけ多いらしいわ。

 だから、魔法使いがあまりいないの」

「…なるほど」

 確かにこの国は別の国に比べて魔法使いが多くなく、魔力が全体的に枯渇しやすい国だそうです。

 それがこんなところに影響が出ていたとは、王妃教育というのはすごいことを教えているなと思いました。

 


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