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3.王太后様のお母様の話


「公爵家を、没落させた令嬢…?」

「ああ、詳細は僕も知らないんですがね…70年くらい前に、王太子を殺した(・・・)令嬢がいたそうなんですよ。

 その令嬢が住んでいたのがこの公爵家、ということのようです」

「そう、なんですか…。

 もしかしてこの部屋が…」

「おそらくはその公爵令嬢の部屋でしょう…彼女には女性の兄弟はいなかったらしいですし。

 最も彼女の義理の姉妹や親類の女性の部屋という可能性もありますが…。

 しかし彼女の部屋だとしたら…この部屋は殺人犯(・・・)の使っていた部屋ということになりますね」

「…そう、ですね…」

 そんなことを話しながら、この部屋には何か得体のしれないものがあると私も思えてきました。

 なんというか…この部屋にいると、息が詰まる気がしたのです。

「…さ、ヴィッツ嬢…そろそろ帰りましょう。

 ここにはこれ以上何もないはずです」

「…はい」

 そして私とクリーナさんは、その部屋を辞し、ほかの部屋を一通り見てから屋敷を後にしました。

 そのままクリーナ大公家の馬車に乗り込み、博物館へと戻る道中のことです。

「そうだ」

 クリーナさんがそうつぶやきました。

「ヴィッツ嬢。

 これから少し時間ありますか?」

「これからですか?

 ええ、どうせ博物館に戻って 仕事するだけですから、あるといえばありますけど…」

「…母に話を聞いてみますか?」

「え?」

 クリーナさんは簡単に「母」といいますが、王弟殿下の母上といえば王太后様です。

「ええ…母なら例の王太子刺殺事件をもしかしたら知っているかと思いまして」

「…そういう、ことですか…」

 さすがにこの提案は魅力的ですが、そのようなことを王太后様にそうやすやすと聞くことが問題ないのかということが少し引っ掛かりました。

「あ、もしかしてそんなことを王族に聞いていいのか、とか思ってますか?

 もしそれが聞いてはいけないことであったとしたら、このことを僕に聞いてきたヴィッツ嬢も同じですよね?」

「…」

 そういえばそうでした、職場の上司という気安さでこんな相談してしまいましたが、この方王弟でした。

「だったら問題ないですよね?

 母上は今日何も予定はないはずだから、今から行きましょうか」

「…わかりました」

 

 そして博物館ではなく王太后様の住む王城の裏にある離宮へとクリーナさんと私は足を運びました。

「王弟のマッド・クリーナです。

 王太后様はご在室ですかな?」

 クリーナさんが衛兵にそう声をかけると、「はっ、王弟殿下、王太后様はご在室であります!」と衛兵さんは大きな声で返答し、付き添いの私にも「どうぞ」と言ってくれました。

 そのまま一番奥にある部屋の前でクリーナさんがノックをすると、「どうぞ」と柔らかなご婦人の声がしました。

「失礼します、母上」

「…マッド…あなたがここに来るなんて珍しいじゃない」

 王太后様は王妃であった当時に比べると質素な装いをされていますが、それでも気品を忘れていない上品のご婦人でした。

「ええ、母上に聞いておきたいことがありましてね。

 あ、こちらは私の部下のヴィッツ・ロードン侯爵令嬢です」

「ごきげんよう、王太后様」

 私はあわててカーテシーをすると、王太后様はなぜか「そう…よろしく」と嬉しそうに目を細めました。

「…母上、なんです、その顔は」

「…マッド。

 あなたがここに女性を連れてきたなんて初めてですもの…そう、ようやくその気になったのね」

「…は?」

 私とクリーナさんは目が点になりました。

 それを見て王太后様も目を点にしました。

「あら、婚約をしたいというご挨拶ではなかったの?」

「…えーっと…」

「違いますよ…そもそも彼女の姉上は、第二王子の婚約者です。

 一つの侯爵家から王家に連なる家に二人も婚約者が出るなど、ありえない話です」

「…(そこまできっぱりと言われると、何とも思ってなくても悲しい)」

 王太后様は、それを聞いて少し悲しそうに「…そう」というと、居住まいをただしました。

「…では、急になんです?

 こう見えても私忙しいのよ?」

 クリーナさんの婚約話ではないと知った瞬間、王太后様はそっけない態度に変わってしまいました。

「…(これで、聞きたいこと話してくれるのかなぁ…)」

 そんなことはお構いなしに、クリーナさんは話をつづけました。

「聞きたい話というのは…70年前の王太子刺殺事件の話です。

 あの事件、母上が知っている限りのことを教えていただきたいのです」

「…王太子刺殺事件…あぁ、公爵令嬢が起こしたあれね…。

 私もお母様から聞いた話で、詳しくは知らないわ」

「それでもいいのです、ご存じのことを教えてください」

「そうね…70年程前、王太子の婚約者だったとある公爵令嬢が、その婚約者の王太子を刺殺したのよ。

 私のお母様は、彼女と王太子の婚約者を争って、戦友みたいな方だったと言っていたわ」

 

 王太后様のお話を総合するとこんなところでした。

 70年ほど前、王太后様のお母様と王太子の婚約者を争っていた公爵令嬢がおり、最終的には総合的に公爵令嬢に婚約者が決まり、それ以降は王太后様のお母様と公爵令嬢は戦友のような立ち位置になっていた。

 しかしある時期を境に、公爵令嬢の様子がおかしくなり、ついには王太后様のお母様にも暴言を吐いたかと思うと、急におとなしくなって、先ほどの暴言は申し訳ないと誤ってきたり等、どんどん情緒が不安定になっていき、その影響は王太子様にも表れるようになりました。

 そんな時現れた、男爵令嬢と恋に落ちた王太子様、当初は公爵令嬢との婚約もあるため、愛妾として彼女を迎え入れることを考えていたそうですが、その話をした途端公爵令嬢が暴れるようになってしまったといいます。

 それ以降、そんな横暴な公爵令嬢に嫌気がさしますます王太子は男爵令嬢にのめりこみ、さらにそれがばれて公爵令嬢が暴れるという悪循環に陥っており、それが積み重なってある王城のパーティーの最中、王太子が公爵令嬢との婚約破棄を宣言。

 しかしその婚約破棄と男爵令嬢との婚約をの宣言を、珍しく黙って聞いていた公爵令嬢は、王太子が「申し開きはないか」と言ったのを見計らい、至近距離に近づいて持っていた自害用のナイフで王太子をブスリ。

 公爵令嬢は王太子の息が小さくなっていくのを見ると、そのナイフで自害し、王城はパニックに陥った。

 その後、公爵家はこの責任を取って平民になり、公爵へ懇意にしていた公爵領の代官である男爵家を頼って農業をはじめ、兄の嫡男もそれに従って男爵家の使用人として再スタートを切った。

 

「…あのお母様と張り合って王太子の婚約者の座を勝ち取ったと思ったらこんな騒ぎを起こして…。

 王太子とあまりにも気が合わなかったとかそういうことなのかしら…」

 同じく「王太子の婚約者」という立場を経験した王太后様からすれば、王太子妃、そして王妃になるというプレッシャーはもちろんあるが、優秀な自身の母と張り合った公爵令嬢がそこまで精神を病んでしまうというのは解せないという顔でした。

 ちなみに王太后様のお母様は、その後王太子になった弟の第二王子を支援し、次世代の王子と自身の娘である王太后様との婚約を早々に決めたということのようです。

「公爵令嬢は…何か不満でもあったんでしょうか、王太子の婚約者という立ち位置に」

「わからないわね…これで私がお母様から聞いた話は全てよ。

 何か不明なことがあるかしら?

 答えられる範囲で答えるわよ」

 この後もいくつか聞きたいことを聞かせていただきましたが、これ以上の重要なお話は聞けませんでした。

 ただ、お話を聞いても、わからないことだらけというか、さらに謎が深まった気がしました。

 


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