麦わら帽子の少女
「覚えてるか?あの幸せだった最後の日を」
戦場で幼馴染のセオドアと再会した。彼は無口で話すのは僕ばかりだ。
その日は戦争開始の知らせが来た、セオドアの屋敷でのガーデンパーティで、農園主とその家族が集まった。
思い出すのはふんわりとした白いモスリンのドレス、大きな麦わら帽子の少女。
帽子の下には白い小さな顔、波打つ美しい黒い髪、大きく強い意志を持った黒い瞳。
僕達の美しいレベッカ。
彼女を囲む1ダースの取り巻きの青年達。僕もその1人だった。
「レベッカ、綺麗だったな。彼女のあの大きな麦わら帽子、つばが彼女の顔の2つ分はあって、キスどころか顔を近付けるのも難しかった」
セオドアは黙っている。
「君だけは彼女に夢中じゃなかったな。本ばかり読んでさ。僕も本は好きだけど。君の家の図書室、すばらしかったな」
「いつも夢見てるよ。図書室を」
ようやくセオドアが反応した。
1年後、長い戦争が終わり故郷に戻った。
呆然とした。故郷は家も農園も焼かれていた。
レベッカはどうしているだろう?
彼女の屋敷に行くと、数人の男女が畑を耕していた。
その中にあの大きなつばの麦わら帽子を見つけた。鍬を振っている細い少年だ。
彼女があげたのだろうか?
「おい君!」
少年が顔を上げた。
短い黒髪、日に焼けた小さな顔、黒い大きな瞳。
少年ではなかった。
「ジェフリー?」
「レベッカ?」
同時に声をあげた。
レベッカの家は半焼し、長女の彼女が家族を養い農園を復活させた。若い女性では危ないと髪を切り男装をした。
「こんなに日に焼けちゃって。みっともないわね」
「そんなことない。今も最高に綺麗だよ」
本心だった。
レベッカは読書もするようになったらしく、僕と町に行くと本を選んでほしいと頼んだ。
本といえばセオドアも戻ってきたが屋敷は全焼していた。
訪ねると思ったよりも元気で使用人達と畑仕事をしていた。
「図書室、残念だったな」
「うん。でも少しずつまた読んでいる」
休憩用の椅子を見ると数冊の本があった。
見覚えがあった。
それはレベッカが本好きの僕のアドバイスを聞きながら買った本だった。
後で知ったがレベッカとセオドアは戦時中、兄妹のような手紙のやり取りをしていた。
ある時レベッカの手紙が途絶えた。セオドアの蔵書が全焼したととても伝えられなかったからだ。ようやく手紙を送るとすぐに返事が来た。
「君が無事か心配で気が狂いそうだった。本より何より君の手紙と君が生きていることが嬉しい」と。
映画『風と共に去りぬ』の最初のガーデンパーティをイメージしながら書きました。
短い髪のレベッカは映画『誰が為に鐘は鳴る』のイングリッド・バーグマンもイメージしています。