表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

1.暴走、そして

はい、懲りずに新シリーズです。

元からあげているほうは書き終わり次第アップします……!

「あぁ、なるほどな……。通りで……」

「ご納得いただけたでしょうか」

「あぁ。否定できる材料もなく、肯定できる証拠はある。お前の言ったとおりなんだろう。んで、どうするんだ?」

「……このままこの森に、というのは?」

「許可できねぇな。これまで生き抜けたとは言え、お前は守られるべき年齢だ」


 眼の前に居る青年の言葉に「面倒くさい事になった……」と内心舌打ちする。こんなんなら手を出さなければよかった。

 が、彼はきっと私が了承するまではあきらめないだろう。最悪の場合実力行使される、という可能さえある。


 どうしてこんな状況になったのか。それにはまず、何故私がこんなところにいるのかを説明しなければならない。


 あれは、もう一月ほど前。



「なんて不気味なんだ……」

「っ、何を見ているのです!」

「申し訳、ありません」


 私は、ある国のある貴族の次女として生まれた。

 ワインレッドの赤みの強い髪はストレート。夜を煮詰めて凝縮させたみたいに暗い目の色と相まって、幼い頃から「不気味な子」と呼ばれてきた。

 どうやら母は私と目が合うのが怖いらしい。私が彼女を見ていることに気がつくと罵声かその辺のものが飛んでくる。


「……」


 通常、貴族の子女には側に仕えるものが下級貴族でも最低2人はいる。だが私にはいない。仕えたもので一番長かったのは1週間だったか。

 影で話していることを聞いた限り、やはり私の目が怖いらしい。おそらくは私の魔力が原因だろう。


 私の魔力はそこそこだが、体に貯めて置ける量が少ない。いくら魔力を生み出しても貯めておけず、外に溢れてしまう。恐らくはそれが威圧感の原因になっているのではないだろうか。


 利点はある。魔力が枯渇するほど使っても2時間ほど経てば満杯になるため、魔術の訓練の密度を上げることができたりなど。


 ただ、魔力が常に身体全体を巡っている影響なのか、体力や筋力が全くもってつかないのは困ったものだ。補佐のために魔術を使う→マナが消費されて全体量と回復量が増す→身体が育たない→最初に戻る。の無限ループ。なんてことでしょう。しかも、小動物も怯えるせいで触れない。人懐っこい(と言われている)子も私には触らせてくれなかった。


 そんな、1人ではあったけどそこそこ充実した毎日を過ごしていた、ある日のこと。


「アーリスラル、お前に最近発見されたダンジョンの調査を頼みたい」

「わかりました、父様。出発はいつまでに?」

「転移魔法陣を用意してある。護衛とおまえが使うであろうものはあたらに用意してあるから、すぐに飛べ」

「はい」


 転移魔法陣。それは2つで1つの転移魔法が封じられた巻物(スクロール)。マナさえあれば何回でも発動が可能なかなり便利な代物である。

 だが同時に、非常に繊細なものでもある。そう、魔力の許容量がほんの少しでも超えれば暴走し、全く関係のないところへ飛ばしてしまうほどに。


(……なるほど。たしかにこのやり方なら証拠は残らない)


「では、頑張れよ」

(「頼んだ」でも「無事に戻れ」でもなく「頑張れ」か)


 醜い笑顔を浮かべる父親に会釈をして陣へ足を踏み入れる。後は父が起句を言えば発動するはず。


(さようなら、父様。精々苦労なさいませ)

「――転移(ワープ)!」


 視界が眩んだ。



「ふむ、森、ですか」


 飛ばされた先は森だった。我が領でないことは確かだが、どこの領、もしくは国だろうか。


「植生は大して変わりませんか。つまり極端な魔力差や寒暖差はないはず。だとするなら生活は問題ないですね」


 独り言を言うのは癖だ。あまりにも一人の時間が多く、一人になるとついつぶやいてしまう。

 傍から見れば変人だということはわかっているのだが……、直そうと思っても直せない。つい出てしまうものだから。


「……この格好は森には向きませんね」


 足元が引っかかる感覚に気が付いて目を向ければ、視界に入るのはドレス。明らかに野外での活動は向いていないし、誰かに見られたら確実に面倒なことになる。


「『衣装置換え(ドレスチェンジ)』。うん、これなら大丈夫ですね」


 この魔法は必要にかられて創った私のオリジナル魔法。意外と簡単で、自分が着ているものと別の魔法で確定させた衣装を入れ替えるだけ。『空間収納(ボックス)』があればこのようにいつでも使うことのできる優れものだ。


 着替えたのは運動服。街へ降りるときにも使えるよう平民服をベースにしている。

 丁寧に結われた髪も解き、雑に結びなおす。ここで過ごすうちに肌も汚れるだろうし、貴族令嬢だと分かる人は少ないだろう。


「いた場合は、お金で口封じが出来れば良いのですけど……」


 お金は少しずつ貯めてきて、今では金貨4枚……、平民の4人家族が5年は遊んで暮らせる位の金額が貯まっている。が、恐らく私に気がつくとしたら貴族か貴族に親しいもの。この程度端金と思われる可能性もある。そうなったとき用に逃げ道を作らなければ。


「『風刃(ウィンド・カッター)』、『収納(ストレージ)』」


 木を1本切り倒し、空間収納へいれる。このまま倒れたら音が出てしまうし危険なので。


「『切断(カット)』、『乾燥(ドライ)』」


 取り出したら程よく加工しやすい大きさに切ってから乾燥させる。この速度で乾燥させようとすると普通は歪みができてしまうのだが、魔法を使うことで歪むことなく乾燥が可能。便利なり。

 因みに、「魔術」とは使用法の確立されている技術。「魔法」とは開発したものしか使えない、もしくは使えても方法が証明できない技法。結構違う。


「最低限雨風を凌げればいいし、これで大丈夫っと」


 切った木を長方形の四角に配置し、布を結びつけて固定する。この時に活躍するのが『状態保持(キープ・アップ)』という魔法だ。これを使っておくことで風で飛ばされたり、地面が泥濘んだりしても倒れることがない。機能を絞ることでマナ消費は少ないし、最初に多めにマナを込めておけば継続時間も長い。

 女の、しかも非力な方がいくら力一杯結んでも簡単に解けてしまう。だから1人で行動するには必須の魔法なのだ。


 地面にも布を引き固定すれば、ここはもう立派な拠点だ。


「持っている食料的に、何もしなければ3巡りは持つ。でも、たったそれだけ。何かしら安定して糧を得る方法を見つけなければ」


 やっと自由になれたのだ。そう簡単に骸を晒してなるものか。


「運動着は3セットありますし、『乾燥』できますから毎日洗濯しても大丈夫でしょう。やはり気をつけなければならないのは食事ね。丈夫な体は食事から、だもの」


 体を作るのは食事である。食事を怠ればいくら訓練しても、努力しても、ロスが出てしまう。そうなったら勿体ない。

 それに、食事は気持ちが落ち込みすぎないようにする働きだってある。毎日の安定した時間の美味しい食事は大切なのだ。


「多少身綺麗なのは魔術師だから、で説明できるかしら? ……いえ、納得してもらわなければなりませんね」


 平民は風呂など入れない。水浴びはするが、それでも2日に1回ほど。商人であれば印象を良くするために汚れてはいないが、他の者は格好など大して気にしない者のほうが多い。

 ……私、明らかに「訳あり」ね。そもそも魔術師が1人でここにいることも、日数によるけど少女が生き抜けたことも異常だもの。


「あぁ、もうお昼ね。まずは食事をしなければ。一番多いのは大猪(ビッグボア)のお肉ね。洗い物が多くなるのは大変だし、フライパン1つで済むものにしましょうか」


 1人で料理することも慣れている。生家で偶に料理を提供していた(彼らは気づいていなかった)し、もし匂いにつられたのがいても撃退できる(大猪は私が狩った)と思うし。


「臭み取りの香草に、塩と胡椒。薄めのものなら火が通るのが早いし、一緒に野菜も蒸し焼きにしてしまいましょう」


 小振りなトマトは厚めにスライス。肉厚で身がしっかりしているから崩れることもない。

 芋は一口大にカットして、『水球(ウォーター・ボール)』へ放り込んでから水球を加熱して火を通す。このやり方なら洗い物が少なくて済むから重宝している。


 10分ほど経った頃。


「良い茹で加減ね」


 芋が茹で上がった。ホクホクとしながら崩れはしない、我ながら絶妙な茹で加減だ。

 フライパンに下準備を終えたお肉とトマト、芋を並べて火にかける。蓋を閉じて、トマトの果汁(と言って良いのだろうか)と肉汁の弾けるパチパチ、ジュウジュウという音を聞きながら周囲を見渡す。


 ……植生ははあまり変わらないのに、ここがどこなのか検討もつかない。まあ、ということは私がいた領地から遠いはず。私が生きている、ということが他のものにバレたとしても、それを生家が把握し、行動に移すまでかなりの時間ロスが発生するだろう。


 お肉をひっくり返す為に蓋を開ければ、白い湯気とともにぶわりと食欲を唆るいい匂いが広がる。

 芋やお肉には良い焦げ目がついている。特に芋は噛んだらカリッといい食感がするだろう。楽しみ。


「フフ、水を入れないのは正解でしたね。トマトからかなり水分が出ています」


 トマトも2つに負けておらず、甘酸っぱい匂いを放っている。きっと脂身のこってりとした感じをさっぱりと流してくれるだろう。


 すべてをひっくり返し、蓋を再び閉じる。後少しだ。


「植生はは同じようですが、領が違う以上食材の違いはあるでしょうし楽しみですね。一体どんなものに出会えるのかしら」


 考えるのは未知の食材のこと。文化や環境の違いはそのまま食の違いに繋がる。特産品もそうだ。食材の特色を掴めば、ある程度その領のことを知ることができるのだ。


「……さて、上手く焼けているかしら」


 フライパンを火から下ろす。真ん中を切って断面を見れば、ちゃんと火が通っている。


「恵みに感謝し、糧を頂きます」


 食前の挨拶をしてからお肉を一口分口に含めば、ふわりとトマトの風味が口いっぱいに広がる。その次に感じるのは大猪の力強い旨味。これぞお肉! という感じで、少量でもしっかりと食べた気持ちになれる。

 芋はやはりサクッと歯ざわりよく仕上がっていた。外はサクッと、中はホクホク。脂を吸ったのかお肉の風味も感じられる、一石二鳥な仕上がりだ。

 お肉、芋とくれば残るはトマト。しっかりと火を通したトマトは酸味が飛び、甘みが凝縮されている。火を通してなお失われないその爽やかさは、口の中の油っこさを流してくれる。思ったとおり。


「美味しい。やはり素材がいいと単純な料理でも十分美味しいものになるわね」


 空間収納の中は時間が経過しない。だから、食材が新鮮なまま保管できる。食べたい時にすぐ温かいものを食べれるため、その気になれば誰とも接触せずに部屋の中で過ごすことさえできるのだ。



 ……まあ、そんな感じで私はここに居るわけである。仕事もご機嫌取りも必要のない生活というのは思っていたよりも快適で、これなら転移魔法陣を使わせるよう誘導しておけばよかったと後悔。魔法も使いやすいから体調も崩していないし、真面目に飛ばされる前よりずっといい生活なのだ。


 さて、私がこの森に飛ばされた2週間後。


 私は、人に出会った。



「……」


 最初は、ぴりりとした違和感を感じた。そっと魔法を発動させる準備をし、火を消す。


「……そこ、誰だ?」


 居場所は既に把握されているか。カマかけの可能性はあるが、声の迷いのなさから言って可能性は低いだろう。


「失礼ながら、顔もわからない相手に名乗るような教育は受けていませんので」

「……ほう。女か」


 次の瞬間、ヒュン! と風切り音を立てて飛んでくる短剣。待機状態にしておいた水刃(ウォーター・カッター)で迎撃。同時に風の膜(ウィンド・カーテン)を起動。これで飛び道具ならある程度防げるはず。


 だが、この些細な時間で短剣の主は接近してきたらしい。


「女性……、それに子供を傷つける趣味はない。降参してくれないか?」

「こちらにも事情がありますので。一応抵抗した、という証拠は残させていただきます」

「そうか。ならばこちらは剣は抜かずにおこう」


 現れたのは短髪の男性。よく鍛えていることがひと目で分かる肉付きをしている。マントの留め具に紋章が入っているが、少なくとも国内のものではないはず。やはりここは国外か。


「……行くぞッ!」


 宣言通り剣は抜かずに来た。後退しながら光弾(フラッシュ)を発動させ目眩ましを狙うが、すぐに魔力の核が切り飛ばされる。

 が、その1振りが私に当たらなければ時間を得たことには変わりない。


「『爆殺弾(フレイム・ボール)』」

「ッ!」


 防御の構え。この魔術なら知っていると思っていた。脅威を知っているから、足を止めるだろうと。


 が、実際に発動したのは水球連弾(ウォーター・ショット)。目的はやはり目くらましと時間稼ぎ。まあ、それでも大人の意識を奪うほどの威力はあるのだが……。


「ほう、偽装詠唱! だが甘いぞ!」


 10を超える水弾は一刀のうちに切り捨てられた。この男、魔力の核をかなり正確に把握してきている。目がいいのか、それともそういう魔導具を使っているのか。


「もら、った!」

「……まだッ!」


 振り下ろされる剣に短剣を合わせ、威力が向く方向をずらす。短剣は折れたが、問題ない。魔法で作った間に合わせのものだ。


「『火矢(ファイア・アロー)』、『風大刃(ウィンド・ブレード)』」

「むむ、見たことのない魔術……、だが、この程度いくらでも切り捨てられるぞ!」


 わかってるよそんなこと。でも、結構自慢の魔法なんだけどなぁ。自信なくなるわ。

 火矢は貫通力を上げたオリジナル。面の制圧力はないが、上手く当てれれば何体か貫通させることができる。素材の傷も少なくなるからかなり利便性の高い魔法だ。何より森の中で使っても延焼しない。

 風大刃は風刃を大きくしただけ。ただ風の細かい刃も隠れているからギリギリ避けたと思っても傷がつく。見切ってくる相手を想定して作ったものだが、こうも対応されるとは。


「っ!」


 木の根に躓く。足元の確認が疎かになっていた。グラリと体勢を崩し倒れた私の首に剣がピタリと添えられる。


「……参った」



 冒頭へ戻る。



「んで、お前はなんでこんなとこにいんだよ」

「転移魔法陣の暴走で飛ばされた」

「暴走!? ……いや、そんなら納得だ。直接ここに飛ばされたんなら結界も反応しねぇよな……」

 

 この森には結界が張られているのか。侵入者を検知する系のものだろうか。


「……お前、逞しいな。それとも地元じゃお前みたいなのが普通なのか?」

「変わっている自覚はある。でもそのお陰で生き残れるからこれは私の誇る技術」


 ちょっと無愛想なのは目を瞑って欲しい。貴族らしい言葉が出ないようにするのはけっこう大変なのだ。


「……1人で魔物を狩れる令嬢って……。お前、貴ぞ」

「それ以上は言わない方がいい」

「なんでだ?」

「いざというとき、『私の立場を知らなかった』といえば追求は免れる。貴族は嘘を見抜く魔導具を持っていることが多いしな。だから、自分の首を絞める質問はやめておけ」

「……そういうことか。ほんっと、見た目と言動が一致してねぇよなぁ」

「……そうか?」


 ……そんなにだろうか。もう10なのだから、これぐらいは出来て当然だと習ったのだが。


「まあ、俺らんとこもガキは居るし、そいつ等と比べてみりゃ違いがわかんだろ。つーわけで、いくぞ」

「恐らくわかっていると思うが、私はかなりの厄介事だぞ。それでも私を連れて行くのか」


 そう言えば、男は呆れたような顔をしてわしゃわしゃと頭を撫でてくる。……頭を撫でられるのなんていつぶりだろうか。多分最後は、5歳の頃家を出るメイドに控えめに撫でられたときのはず。

 ……もう、5年も経ったのか。


「ったりめーだろうが。ここでお前を連れて行かなきゃ俺はクズの仲間入りじゃねぇか」


 変なことを言う。私はここにいてはいけない人間なのだから、無視すればいい。面倒事なんてなかったことにして、ただ日常を甘受すればいいのに。

 なんてことを考えながら顔を見上げていれば、急に抱き上げられた。


「うお、軽……。おま、ちゃんと食ってんのか?」

「食べてる。失礼」

「はいはい。……疑問に思ってる見てぇだから答えるが、ガキは大人に守られて笑ってりゃいいんだよ。そんな辛気くせぇ顔させる大人はクズだ」

「……姉と、弟は笑っていた。彼らにとって私の両親はクズじゃないのだろう。この場合はどうなる?」

「兄妹で差がある段階でアウトだ、アウト!」


 顔も見たこともないくせに、そう断言する男。快活。


「そういやお前、名前はなんだよ?」

「名前を聞きたいなら自分から名乗れ」

「わーったよ! 俺はレオンハルト。貴族じゃねぇから姓はねぇ。で、お前は?」


 アーリスラル、と答えようとして口を噤む。本名は避けたほうが良いだろう。


「……アリス」

「いい名前じゃねぇか! 宜しくな、アリス!」



――

「あ〜っ、リーダーが女の子攫ってきた〜!」

「ちげぇよ! 保護したんだ!」

「うわ、かわいい子! リーダーこっちに頂戴! ほら、おいで〜!」


 森から出て、馬に乗せられ暫く走った後についたのは砦だった。

 ……旗が掲げられている。所作に優雅さはないから、この人たちは貴族出身ではないのだろう。だとするなら騎士という線はないだろうから、傭兵団だろうか。

 それにしても、圧がすごい。正直怖い。


 見張り(と思われる人達)はリーダーと気安く軽口の応酬をしたり私に手を伸ばしてきたりと自由。警戒心はないのか。これが貴族の邸宅だったらレオン(そう呼べと言われた)と一緒でも一先ず取り調べだぞ。私がレオンを洗脳でもして侵入してきている敵だったらどうする。


「え〜、でもリーダー森から来たじゃん? あんなとこにこんなちっさい女の子がいれるわけないじゃん」

「嘘なんざついてねぇよ! 俺だって目を疑ったわ!」

「ん〜、隠し子とか? それにしては似てないかー……。ねえ、どこから来たの? 親は?」


 聞かれると思っていた質問。だから、用意していた答えを話す。


「転移魔法陣の暴走に巻き込まれた。両親は貴族とも面識のある腕のたつ魔術師だから、色々叩き込まれた」

「うわぁ、すごいじゃない!」


 嘘はいっていない。両親は確かに腕の立つ魔術師だし、そもそも貴族だから他の貴族と面識があるのも事実。ただ、少し伝えていないことがあるだけだ。


「暴走して飛ばされたのがあの森だった。レオンハルトに保護されたのも事実」

「こいつ、かなり腕のたつ魔術師だぜ? あそこの魔物相手でも5対1で完封できるんじゃねぇか?」


 ……そういえば、狼の群れに囲まれたことが多かった。幻覚と幻聴、あとは匂いを出してある程度追い払って、向かってきたやつは倒した。あれが大体10匹くらいだったか。


「うわ、まじで!? ほんとにそうなら俺よりそいつのほうが強ぇじゃん!」

「強くて可愛いとか最っ高じゃん! リーダーこれまでで1番尊敬した!」

「は!?」


 この程度のことが1番とは、レオンは意外と尊敬されていないらしい。舐められていると言ってもいい気がする。


「……はぁ。こいつの名前はアリスだ。どっか空いてる部屋はあるか?」

「アリス! アリスちゃんね! 名前まで可愛い! 部屋なら私の隣が空き部屋です!」

「おい、それでいいか?」

「問題ない」



――

「この部屋よっ!」


 女性……、ルナリアさんに連れられたのはシンプルな部屋。

 程よく日差しの差す部屋で、この中で読書するのはきっと落ち着く。

 家具としてはテーブルと椅子が1セット、クローゼットが1つ、ベッドが1つ、棚が1つ。机のところに絨毯が引いてあるが、恐らく机と椅子の足で床を傷つけないようにだろう。


「いい部屋」

「でしょ? この階じゃ1番よ!」

「ならなんで空いてたの?」

「……ふふ?」


 ……少しの時間外していたから、その時に部屋の持ち主に交渉したのだろう。脅迫かもしれないが。


「ここの人たちは見た目は怖いかもしれないけど、根はいい人たちばかりよ。怖がらないで接してあげてね」

「わかった」

「それにしても、きれいな髪ね……。どうやって手入れしてるの?」

「これを、使ってる」


 差し出したのは自作した洗髪料。植物の油と細かい、頭皮につけても傷がつかない大きさの木のみの欠片を混ぜてあるもの。

 家で使われていたものの材料に当たりをつけて再現したものだ。あれは私は使ってはいけないものだったし、なんとか出来そうだったから。

 香り付けにラベンダーを少し入れているからいい匂いもする。お気に入りだ。


「この匂い……ラベンダーね? いいわね、香水よりふわっと香りそう……」

「気に入ったなら、譲る。それは使いかけだから、こっち」

「え? でも消耗品でしょ? 私が使ったらあなたの分が少なくなっちゃうわよ?」

「他の香りも、あるから。量は結構ある。貰って」

「……そう。ならありがたく頂くわ」


 そもそも作れるし。あの森は油分を多く含む木の実が多くなっていたから予備もそこそこある。ご機嫌伺いの贈り物は円滑な対人関係に大切なのだ。


 ルナリアさんは夕日みたいな色の髪と月みたいな目をしたきれいな女性だ。ここが推定傭兵団なことを考えれば結構珍しいのではないだろうか。


「……あの、家族に無事だって連絡しても、良い?」

「良いけど……どうやって?」

「大丈夫」


 返答にはなっていないと思うけど、それだけ返す。手紙には『アーリスラル 転移暴走 無事』とだけ書いて四つ折りに。


「『手紙よ届け(レター・デリバリー)』」

「……! これは、魔法……!?」

「私のとこで試験的に試されている、新しい魔術、です」

「凄いわね……!!」


 手紙は鳥の形になって飛び立った。これで彼らに届けてくれるだろう。

 送り先は仲のいい執事見習い。きっと心配しているだろうから。


「あっ、結構時間たったわね。リーダーたちが待っているはずだから行きましょう」

「わかった」



――

「つーわけで、これから面倒を見るアリスだ」

「アリスです。宜しくお願いします」

「はいはーい! その子、戦えるのー!?」

「……見たほうが信じるか。やるか?」

「問題ありません」

「!! やるやるー!!」


 と、いうわけで模擬戦をすることになった。

 相手は魔術師のアルさん。元気で可愛らしい女の子だ。


「相手が降参するか致命傷となる攻撃だったと判斷されれば終了だ! 両者、用意は良いか!?」

「はい」

「うん! 楽しみー!」

「では。――試合、開始ッ!」

「いっくよー! 『氷塊魔弾(アイス・バレット)』!」

「『風塊魔弾(ウィンド・バレット)』」


 氷塊がかなりの勢いで飛んでくるのを風塊で迎撃。同ランクの魔術だから問題なく対処可能。


「あはっ、凄い、見てから対処した!? じゃあこれはどう!? 『雷槍(ライトニング・ランス)』!!」


 複合属性か。素直に凄いと思う。

 ……ならば私も、特技の1つをお見せしよう。


「『泥槍(マッド・ランス)』」

「見たこと無い魔術!もっと、もっと楽しませて!!」


 さあ、畳み掛けよう。


「『泥塊(マッド・ボール)』、『水球(ウォーター・ボール)』」


 ただふよふよとするだけのそれを対処しようとはしないはず。制圧力はないから。

 その油断は、私の勝ちへつながる。


「あれっ、もうネタ切れっ!?」


 ―――今だ。

  

「『弾けよ(スプラッシュ)』」

「っんな!?」


 あたりに泥と水が飛び散る。役割は目潰しと時間稼ぎ。視界が外れた隙に、1つ、魔法を起動する。


「『槍となれ(ランス)』」

「そこまで! 勝者、アリス!」


 発動させたのは「魔力的繋がりのあるものに定形の命令を下す」という魔法。今回の場合は飛び散らせた水と泥が該当する。下準備は必要だが、かなり有用な魔法だ。


「……〜〜っ! 凄い! 凄いよアリスちゃん!」

「ッ!?」


 急に抱き上げられた。そのままくるくると回される。アルさんの目は幼い少女のようにキラキラと輝いている。


「私も切り札は切ってないけど、アリスちゃんも全力とは程遠かったでしょ? しかもまだ全然小さいのに魔法まで使ってる! アリスちゃんはとっても凄い!」

「は、はあ……?」


 ……取り敢えずおろしてくれないだろうか。酔う。



――

 まあ、そんなこんなで私は彼ら……「緋翼連隊」に受け入れられた。


 役割としては、ご飯と掃除、時々討伐である。

評価・いいねは励みになりますので是非お願いします!

誤字報告は見つけたらお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ