波瀾の婚姻式② (最終話)
断罪の続きです。そしてこれで本編終了です。
「ジェラルド王子に質問です。貴方は元王妃の実子ではない事を知っていましたか?」
ジェラルドは無表情のまま、「知っていた」と答えた。檻は無反応。
「実母が元王妃に殺された事は知っていましたか?」
「知っている。あの女がわざわざ教えてくれたからな」
あの元王妃は、王と縁づいたせいで性格が破綻したのか、元々底意地が悪かったのかは分からない。でも、おまえの母親を殺したのは自分だと、カミングアウトしたのは懺悔ではないだろうな。あの女、自己顕示欲強かったから。
「王妃派閥とアサマシィ侯爵家を陥れ、粛清したのは復讐の為ですか?」
「違う。国の為だ」
バチバチっ
「王家の為」
バチバチっ
ジェラルドは苦痛に呻いた後、嘲笑うかのように顎を上げた。
「邪魔だったからだ」
檻は無反応。
「それはあなたが王位に就く為には邪魔だった、という事ですか」
「そうだ」
「国王が見て見ぬふりをしたおかげで王妃派の貴族たちが専横を極め、それが為罪に問われるのは自明の理。
証拠も証言もあり、貴族議会でも承認された事案ではありますが、粛清計画に貴族学院卒業パーティを利用し、元男爵家令嬢セシルを利用する必要はあったのですか?」
「必要だった。馬鹿どもを釣るには丁度いい茶番だったろう?」
「元第二王子ジェイソンと側近令息三人が愚行を犯しているのに是正を行わなかったのは、粛清計画に都合が良かったからですか」
「諫めたが聞き入れらなかったんだ」
バチバチっ
「あの馬鹿どもでも使い道があったんだ。ただ捨てるより役立てた方が合理的だろう?」
イケメンとか言われている顔も醜く歪んで台無しだ。
「マリアージェ、おまえだって諫めきれなかっただろう?」
「そうですわね。それでも出来る限りを致しました。
本人たちにはもちろん何度も注意喚起し、忠告もしました。聞き入れられなかったので、学院の教師や学院長を通してもらい、それで駄目だったので各家のご当主やご夫人方に手紙を出し、再教育をお願いもしました。
改善が見られなかった時には祖父母まで範囲を広げ、わたくしからではなく父から通達してもらった時もありますわ。
それなのに、各家の事情に無遠慮に踏み込んだと、苦情を言われたりも致しました。
そして結果はあの有様で、全て徒労に終わりましたわ。
それで? ジェラルド王子、あなたはそこまで致しましたか?」
こうして言ってみると、我ながらよくやったわ。
全くさぁ、自分ちの子供の躾をちゃんとしろよって話だよ!
問題起こしたから除籍して追い出して、自分も責任取って辞任でお終いじゃねぇんだよ! その前の段階で何とかしろよ!
再教育っていうなら改善するまで閉じ込めて置くくらいの気概を見せろ!
それもしないで注意喚起したこっちを逆恨みする親子ともどもくそったれが!!
「は? おまえ、ジェイソンはともかく、他は赤の他人だろう?」
「貴族学院では、上位者が問題を解決する手を差し伸べる事――そういうルールがございましてよ? ご存じでしょう?」
貴族学院には『生徒会』ってないんだよ。
「それで逆恨みされるとか。は? バカじゃないのか」
おーまーえーにぃ、言われたくない!!!
つい言い返したくなるのをぐっと堪える。ジルがぎゅっと手を握って来たから。
「わたくしの事はどうでもよろしい。今はあなたの罪を問うているのです。
改めて問います。セシルを脅迫して計画に巻き込み、ジェイソンと側近三人を篭絡させて愚行を唆したのはあなたの計画ですね?」
「ふん、脅迫などしていない!」
バチバチっ
「平民出の男爵の娘が夢を見て勝手に行動したんだ!」
バチバチっ
「あのアバズレは死んだ! 今更なんだって言うんだ!?」
バチバチバチっ
あら、セシルは死んだと信じてたんだ。グッジョブ、工作員!
「時間切れです。正しく答えられないあなたの為に証拠を提示しましょう」
さっき、ベールを取り去った時、アルマに手渡された【CAMERA】。「セシルが脅迫された証拠映像です」、と言われた時はいつ使うかなーと悩んだけどね。
「皆様に見て頂きたい映像があります。魔導師団技術研究所の偽造防止の刻印がされた、証拠たる映像です」
学院卒業パーティの再現か。空中に投影された映像には、少し薄暗い室内に三人の男女が映し出されている。
男はジェラルドと近侍一人。女はセシル。
ジェラルドがセシルの小説に言いがかりをつけて、不敬罪に問われたくなければ協力しろと言っている。
極めつきは、「母親は大事にしたいだろう」、という脅迫だ。
その後、役割と連絡方法、謝礼として国外に親子で移住出来るよう取り計らうと約束し、契約書を交わしている所で映像は終了した。
「何故だ、あの部屋に【CAMERA】などなかった……!」
「語るに落ちるとは」
ジルがくつりと嗤うと、目を吊り上げてジェラルドが睨みつける。
それにしてもずいぶん都合良い映像が録画されてるなぁ。
こういう事があると事前に知らないと取れない映像だよ。
もしかしたら、ずいぶん前から王家の行動は監視対象だったのかも。ジェラルドが平民を呼び出したってんで、映像を残したのかもね。結果的にグッジョブだ。
「更に証人を呼びましょう」
壁際に控えていた変装メイドは、促されて静々と場内中央へと進み出た。
「元ライアー男爵家令嬢セシルは、貴族学院卒業パーティでふしだらな悪女を演じた後、騎士に捕縛され連行されましたが、途中で抵抗して逃げ出した為騎士に斬られ亡くなってしまった。遺体はその騎士が処分したと、予定通りの報告を受けていたのでしょう?
ですが、わたくしたちが保護していたのです!」
変装メイドがわたしの視線を受けて、眼鏡とイヤリングの変装魔導具を取り去った。
とたんに茶髪は金髪に、茶色の目は青色に変わり、三つ編みをほどいて頭を一振りすると、証拠映像と同じ小動物系美少女が現れた。
セシルは淑女の礼を披露する。特訓の成果があり及第点だ。
頭を上げ、ピンと伸ばした背筋に、意志の籠った強い瞳。何処に出しても恥ずかしくない令嬢然としているわね。
「元ライアー男爵家の養女、現在は平民のセシルと申します。
過日、第一王子殿下に召喚され、母とわたくしの命を盾に、第二王子殿下と側近のご令息たちを篭絡し、マリアージェ公女殿下に嫌がらせをされていると冤罪を掛けるよう命じられた事を、ここに証言いたします」
「貴様っ、よくもぬけぬけと!」
セシルを見て愕然とした後、唾を飛ばす勢いで食って掛かろうと檻を飛び出そうとしてバチバチと電撃を食らうジェラルド。
「酷いですわ、殿下。わたくしは命じられた通り仕事をしましたのに。
不特定多数の令息たちとも、親密になったように見せかけろと命令され、嫌々ながらも二人きりで密室に籠るなどして、本当に襲われそうになったことが何度もございました。……辛かったです、うう」
ナーイス、セシル。やっぱ女優よねぇ。
ほろりと涙を零し、両手で顔を覆って俯くさまは、男性諸氏の庇護欲爆上がりだと思うの。
「ジェラルド王子に問います。証拠映像の内容とセシルの証言は事実でしょうか」
「平民の言うことなど信用に値せぬ!」
バチバチっ
あらぁ、身分を問わず能力で取り立てる、という美談の建前が崩れる発言ね!
ちらりと隷属から解き放たれた文官たちの姿を探す。目的の人物は目を覚ましていた。
「そこの文官のあなた」
手の平で指示すと、黒装束が該当の文官を連れて来てくれた。
もう、黒装束たちは”黒子”にしか見えなくなったわ。
「先ほどの証拠映像で、ジェラルド王子の背後にいた方ね。あなたはあの映像の内容が事実であったか証言できますか?
あなたを縛り付ける枷はもうありません。真実の証言の場です、不敬にも問われません」
「……オスカー」
命令とも懇願とも取れそうなジェラルドの声に振り向きもせず、まっすぐ貴族議会員たちに視線を固定したオスカーと呼ばれた文官は、恭しく礼を取る。
「ギリエム子爵家三男オスカーでございます。第一王子ジェラルド殿下付きの文官を拝命しております。
先ほどの映像の現場にわたくしは同席しておりました。故にあの映像が事実であると、ここに証言いたします」
「オスカー! 貴様、裏切るのか!?」
何度も檻を突破しようとしてバチバチと電撃を食らうジェラルドって、実は撃たれ強いのかしら。かなり痛いと思うんだけどなー。
対してオスカーさんは眉間に皺を寄せても、ジェラルドに目を向けない。頑なに見るまいとしているかのようで、ぎゅっと握りしめられている両手の拳は微かに震えていた。
「更に申し上げます。セシル嬢への連絡役はわたくしでした。
学院卒業パーティ会場から退場させた後、牢獄に収監せず途中で殺す手はずであったのも事実です。
わたくしがジェラルド殿下に命令されて差配しました。……口封じの為、という理由でした」
「違う違う違う!!」
ジェラルド、バチバチバチバチうるせーから突進するの止めてくんない?
手なのか、焼け焦げている匂いもしてきたわよ。
「ジェラルド王子に問います。ギリエム子爵令息の証言は事実ですか?」
「違う!!」
バチバチっ
ジェラルドは時間切れになるまで認めなかった。
ここでジルが耳打ちしてきたんだけど、その内容に驚いて振り向いたら、顎をしゃくって言えと促されてしまった。
ええ~、マジでぇ?
「ジェラルド王子……あなたはミカエラ公爵家令嬢サーシャ様との婚約を破棄する為、求婚してきた西の国のナジェンダ王女を誘導し、サーシャ様を毒殺しようとしましたか」
驚愕! 何でバレた!? と言わんばかりに目をかっぴらいているジェラルド。
こっちがびっくりしたわ。
「ち、違うっ! あれはあの王女が勝手にやったことだ!」
バチバチっ
これにはミカエラ前公爵と現公爵夫妻が、眼光鋭くジェラルドを睨みつけた。
車椅子に座っているサーシャ様も、唇を引き結んで眉を顰めている。毒の後遺症で体が思うように動かなくなっているんだって。
後で治療するから待っててねぇ。
ジェラルドはしぶとく違うと訴えては電撃を食らってる。頑丈だわね。
ジルが更に耳打ちしてきた。え?
「……質問を変えましょう。サーシャ様と婚約破棄した後……わたくしと、婚約するつもりでしたか?」
「…………」
婚姻の誓いを邪魔して来たしなぁ。マジで、小説になぞらえて求婚しようとしてたの?
「レオナルドは兄だろう? 兄としてしか見ていなかったはずだ。なんで求婚を受けたんだ」
なんでって言われてもねぇ。質問しているのはこっちなんですけど。
「レネとは幼い頃から、将来は夫婦となる方向で家族・親族とで内々に決まっていた。それに横槍を入れたのはバスク家だ」
わたしの代わりにジルが答えた。
へー、そうなんだー。わたしは知らなかったなー。
わたしなりに考えたんだけど、前世の家族・兄妹と、今世の家族・兄妹の距離感が全然違うのよね。
前世の兄妹はとっても近くて、わちゃわちゃ一緒くたになって育った。
今世はってぇと、友人より遠い距離感でしか接触してないのよね。
よく似ているし、兄だと言われて育ったからそう認識していたに過ぎないような?
だから、急に関係が変わっても嫌悪感が湧かなかったんじゃないだろうか。
厳しくて怖い人ではあるけど、嫌いじゃなかったし。
分かり難いけど、根底に優しさがあったし。
今はなんか溺愛してくるし?
そんな事をつらつら想い耽っていたら、ジェラルドは時間切れとなっていた。焦げ臭い。
「マリアージェ嬢、少し宜しいか」
ミカエラ公爵が手招きする。どうやらサーシャ様が何か言いたいようだ。
わたしはジルを伴って――しょうがないじゃん、離れないんだから――彼らの側に進んだ。
「……マリ、アージェ、さま……伝えたい、事が……」
話すのもしんどそうなサーシャ様。
今日、婚姻式だけなら多分欠席していたんでしょう。無理を推して参列したのは、臨時貴族議会が開催されるのを知っていたからなのね?
「お辛いでしょう? 先に治療してもよろしいかしら」
「マリアージェ嬢……サーシャは治るのか」
「完全に治癒出来るかは分かりませんが、とにかくやってみましょう。『上級治癒』」
じんわりと包み込むように魔法を掛けた。サーシャ様の体を覆う光が徐々に強くなり、すぅと消えた。どうかな?
サーシャ様はひじ掛けを握っていた手を持ち上げ、握ったり開いたり確かめていると、ぱっと笑顔を浮かべた。
そしてゆっくりと車椅子から立ち上がった。……ク、クララが立った!
喜び合うミカエラ家の皆様。
うん、念のため『回復魔法』も掛けたよ。
どよめく聖堂内。神官たちはこっちに向かって祈りを捧げているのはなんで?
「ありがとうございます、マリアージェ様。お伝えしたい事とは――」
パチンと指を鳴らし、『拡声魔法』を発動した。皆に聞こえないとね。
「わたくしが西の国のナジェンダ王女様とのお茶会で毒に倒れた時、王女様がわたくしの耳元で告げたのです。
『お気の毒様。あなたはジェラルド殿下に嵌められたのよ』って、笑っていました」
シーンとする聖堂内。
全員の冷え切った視線がジェラルドに集中する。
「ジェラルド王子に再度問います。サーシャ様に毒を盛る為に、ナジェンダ王女を利用しましたか」
「……違う」
バチバチっ
こちらも時間切れ。もう答えなくても罪は暴かれている。
「大神官様、貴族議会員の皆様、王と王子の罪の一端は明らかにされました。
余罪につきましても今後明らかになると期待しています」
どうせこれだけじゃないんでしょう? でも、今回の罪だけでも地位を失うには余りある。
わたしが締めくくり、お父様が後を引き継いだ。
「王は務めを果たさず、品性下劣なる罪を犯した。このまま玉座に付けておいてはアルステッド王国は、国際的に無法国家と誹られよう。
また、忠臣を蔑ろにし、人の命を駒のように扱う王子は、罪を罪とも思わぬ下種。次代を担う権利はもはやない。
我らリズボーン家は、これまで延々とバスク家の尻拭いをしてきたが、それにも限度があり、堪忍も寛容も底をついた」
リズボーン家は、今のバスク王朝の前から似たような立ち位置にあった。
ずーっと影から王家を支える役目を担ってきていたらしいんだけど、建国以来王家の血筋を取り入れてきたので、本来ならバスク家より古い由緒正しい家柄なのよ。
そうなのよ! 歴史を学んでいれば分かるはずなのに、例の四馬鹿次男ズは分かってなかった。不思議だわー。
お父様が一旦言葉を切った後、大きく息を吸って胸を張った。なんだかこれから一大決心した言葉を告げるように。
「決議を取りたいと思う。バスク王朝の廃止と、リズボーン家が王朝を開く事を。賛成の者は挙手を願う」
うえぇ!? 妥当だとは思うけど、思うけれどもぉ!?
すぐに挙手する者たちに続き、隣近所と顔を見合わせてから挙手する者たち。
ざっと見回したら全員が挙手していた。つまり全会一致。
ついでに大神官様も挙手していたのにはちょっと笑ってしまった。
「満場一致でバスク王朝はジェレミー王で終焉する」
「簒奪だ!!」
今まで放心してたようにおとなしかった王様が、にわかに元気を取り戻して叫んだ。
「バスク家の血を引く、余の第一子レオナルドがいる!
元からジェラルドではなくレオナルドを後継にしたかったのだ!
それを押し退けて貴様が王に成り代わろうとする簒奪だ!!」
パシーンと小気味よい音が響いた。
おお!? お母様が扇を閉じた音だった。
「お黙りなさい! よくもそのような戯言をほざけたものね。
レオナルドが産まれた後も認知もせず、我関せずと連絡さえ取らずにいたものを!
何が第一子ですか! 初めて顔を会わせたのは、ジルが十五歳のデビュタントだったくせに、馴れ馴れしくも摺り寄ってくる恥知らずが!
ジルは法的には父親のいない私生児。そしてわたくし達の養子で、オルランド伯爵としてリズボーン家に婿入りしたのです。あなたの出る幕などない!!」
淑女はいかなる時も大声を出してはいけません――てあなたに教わりましたが?
ま、そんなん一々わたしは注意しませんよ。
ちろりと当事者様を見上げてみたら、冷ややかな無表情。
「たった今、大神官様と貴族議会により国主の座を失った無能の元国王よ。
わずか数か月前に行われた貴族議会で、ジェラルドを王太子にすると決議された時、何ら異議を唱えなかったにもかかわらず、ここに至ってわたしを担ぎ出そうとするとは呆れ果てる。
親子の名乗りを上げたこともなければ、元より貴様を父親と思ったこともない」
あー、王様は物言いたげにジルを見てはいるけれど、それだけだったもんねぇ。
二人で通じ合ってる? なーんて思ったこともあったけど、どうやら王様の片想いだった模様。
遠慮なしの見下した発言。”貴様”呼ばわり。誰も彼をも傷つける発言しかしない元王様じゃあ仕方ないかぁ。
ジェラルドだって屈辱に顔を歪めて呻いているよ。無数の電撃を食らってボロボロだってのもあるだろうけど。
ジルの言葉に傷ついた顔をした元王様をじろりと睨み、お父様が一歩前へ出た。
「簒奪ではない。しかもわたしが玉座に就くことはない。
新しい王朝には穢れ無き者を!
貴卿らもこの場で見たであろう? 王者を裁く堂々とした立ち居振る舞い、聖魔法の使い手であり、誰よりも強い魔力を持ち、我が国の魔導具に革新をもたらした『リズボーン家の至宝』、我が娘、マリアージェを初代女王に戴きたい!
貴卿らの判断は如何に!?」
は? 今なんて!?
呆気に取られていると、聖堂内にいた貴族たちが次々と膝を折る。
「「「「「――新たなる女王に忠誠を――」」」」」
「国教会は新女王を歓迎いたしますぞ」って大神官様!?
はぁぁぁ!? ちょっと待って!!
聞いてない! 聞いてないよぉぉぉぉぉ!!!
お父様が国王になるんじゃないのぉぉぉ!?
おい、ちょっと待てこらジル。何隣で跪いて手を取ってるの!
指先にキスして「女王に忠誠を誓います」とか言ってんじゃねぇよ!!
見上げた顔が、ニヤリとしたんだけど!?
想定内? 予定通り? どこまで根回し済んでるのよ!
冷静に対処? 出来るかーーーっっ!!
と言っても、みぃんな頭を下げているのよ、ウチの両親も。
どーすんのよこれ。
――立ち上がらなければならない時、例え不調であっても為さねばならない事もある――
かつてお父様に言われた言葉が蘇る。
――貴女がなりなさい――
昨日、母から言われた言葉。
――ジルは子供の頃から貴女を支える夫になりたいって言ってたのよ――
まさか……まさかまさか!?
その時からわたしの女王計画があったって言うんじゃないでしょうね!!?
わたしは誰の手の平の上でコロコロ転がされているの?
じとりとジルを睨むも、微笑しか返ってこない。
周囲をぐるりと見回すと、キラキラした目で見つめるセシルと目が合った。
オルティスくん、君もどうして目をキラキラさせてんの!?
はぁ、聞いてない、知らないと言える雰囲気ではない。許諾一択しかない戦略に嵌ってしまったのね。
あーあ、自由気ままな外国暮らしよ、さらば。
でも……一人で苦労を背負う訳じゃないよね。お祖父様もお祖母様も、両親もいる。それに――
夫になったばかりのジルの手を引いて立ち上がらせ、パチンと指を鳴らして拡声魔法を展開する。
「……面を上げなさい」
次々と顔を上げる面々は、王朝の始まりに立ち会えた興奮があるみたいで顔が上気している。
「わたくし、マリアージェ・レネ=リズボーンが、新王朝初代国主としてアルステッド王国に身を捧げる事を、今日この日、神に誓う!
この場に集いし国教会大神官並びに諸卿らが証人である!」
万雷の拍手がわたしに応えた。
「尚、既にわたくしの夫である、レオナルド・ジル=オルランドを王配、共同統治者として指名する」
一瞬間があったが、拍手で受け入れられた。勢いって大事ね!
王配は予定通りでも、『共同統治者』はどうかな?
ねぇ、わたし、してやった?
隣のジルの顔を見上げる。
口角を片方だけ引き上げて、苦笑いしている……ような気がする。
ふふ、まぁいいか。反対意見が出ないんだから良しとしよう。
それにしても――
あーあ。
せっかく治ったのに、またしくしく胃が痛み始めたよ。
*****
大聖堂での騒動の後、そのまま簡易な即位式まで執り行ったの。
つまり、わたしは女王として即位したのだ。
その後、元王と元第一王子は、二人とも魔力封じの枷を嵌めて『北の離宮』へ転移させた。
北の離宮も賑やかになるわねぇ。
中からも外からも出入りできない、封じられた離宮で、家族水入らずでしばし過ごしてもらいましょう。
罪の全てを調べない内に、毒杯を与えないことになったから。
彼らには教えてないんだけど、食料や生活物資を転送した後、離宮直通の転移魔法陣は破壊した。だから彼らはそれだけで生きなければならない。
離宮は設備がちゃんと整っているらしいの。上下水道に調理場、お風呂場にトイレまで完備されてるんだから、一般人ならしばらく問題なく暮らせるはずよ?
あら、あの人たち、元王族ね。
戴冠式後に恩赦で封印を解除して、生存を確認することになったわ。戴冠式は一年後よ。
救いようのない罪人の心配より、これからの事を考えないといけないわね。
政権交代が起きたことを、広く国民に周知しなければと、新聞を発行し、文字を読めない平民の為に魔導具を駆使して、世界初の『全国放送』をしたの。
映像を多数の受け手に配信する技術はまだだけど、音声だけならイケるってイリヤ氏が言うから採用した。
わたしの思い付きで始める事だから個人資産で……と思ってたら、女王の即位を公布する為なのだから国庫から出すべきだとジルに窘められた。
そういえばそうかも。
特別予算枠は、取り潰された貴族家の財産で賄われたけど、他にもっといい使い道があるんじゃないのかしらね。
また、王宮の地下に、今は使われなくなった祭壇があって、大きな魔石と護国の結界魔法陣が放置されていた。
昔、王族に聖属性持ちがいた頃の名残らしく、魔石に魔力を込めると今でも発動出来るとあってチャレンジしたよね。
ぴかーっと七色に魔石が輝いて、魔法が展開された。
実際結界が機能しているかは、辺境を守る騎士や兵士に確認しないといけないけど、うまくすれば越境してくる魔獣被害が無くなるのよ。
なかなか使いどころのない聖属性だけど、こういう所で役に立つとは。
無駄にチートだと、宝の持ち腐れだと嘆いていたけど、ちょっと満たされたわ。
ともかく、いきなり降って湧いた女王という役目に、手探りで邁進していく。
兄改め、夫と共に。
うん、認めてる。ちゃんと認めてるよ? 夫だって。
だから毎晩、抱き潰そうとしないでよ!
分からせるまでヤルってなに!?
以前セシルに「ヒロインがスパダリに溺愛される」小説を書いてみてはと言ったけど、はっ、もしや今それが自分の身に降りかかっている!?
戴冠式が終わって一段落。
避妊を止めたとたん妊娠した。
当然の成り行きよねー。
覚えてろよ、ジルめ!
*****本編終了*****
長い文章を読んでいただきありがとうございます!
どんな言葉で終わらせるか、なかなか悩ましいですね。
そしてこの後におまけの【余談】がありますので、よろしくお願いします。