代償の内容
「まず1つ目。これはさっきから言っているが絶対に他言無用なこと。仕事内容もそうだが関わった人物、訪れる場所、そして何より仲間。もちろん自分の名前も基本的には業務中は口に出さない方がいい。」
これは想定内だったのだろう。2人は無言で頷いた。
「2つ目。これは仕事云々より俺からの頼みだ。翔にも毎回口酸っぱく確認してから現場に連れてっている。いいな?何よりも自分の命が最優先だ。」
翔が頷く。
「最優先っていうのは、文字通りの意味だ。もし俺が死にそうになっていたとしても自分が生き残るためには見捨てろ。それは他のメンバーでも同じだ。もちろん俺もそうする。仕事内容によっては危険な時もある。だからこれは絶対だ。いいか??自分の命は自分で守れ。」
愛と老人は目を見開いたまま聞いているが秋は続ける。
「もちろん巻き込む代わりにできる限りフォローはする。当然俺が届く範囲なら守るし安全に務める。今のとこ翔にやらせた仕事で命に関わるものも無かったしな。」
「えっ!待ってよ秋さん!!!あったじゃん!あれ!ペットのお守りって言われてルンルンで向かったら俺の身長よりでかい蛇だったじゃん!命の危機かんじたよ!?」
「…っとまぁ、危険度も今のところこれがMAXだったってことだな。」
必死な翔の姿を見て2人のやり取りを見て愛は少し緊張が解けたようだ。
「…口を挟むようであれじゃが、わざわざそれを約束させるということは秋さん、お主は命を落とす可能性のある仕事をしてきたということかのう?」
一瞬で場の空気が凍る。
一瞬気が抜けた愛の顔にも力が入る。思い出してぷんすかしていた翔も、言われて初めてその可能性があったことを理解し秋の顔を見る。
「隠しても仕方ないことだから正直に言うがじいさんの言う通りだ。まぁそうはいっても翔と出会う前のことだから心配しなくていい。やばそうなものには最初から許可しないよ。」
秋の言っていることはわかるが受け止めることが出来ない3人。
「とにかく、だ。本当に仕事の内容は先に俺が把握してるし危険とわかっていたら連れていかない。だからこそ『絶対に死守すべき約束』として覚えていてくれ。万が一ってことが無いなんて神様じゃないんだし俺にもわかんないからな。」
守れるか?最後にそう付け足し3人に目を向けると戸惑いつつも3人ともしっかりと頷いた。
そして最後の3つ目。
これを話すのは翔に話したのが最後だから約2年振りくらいだ。もちろんこれも仕事とは関係ない。実際翔と行動を共にし始めてから彼の前で使ったことは1度もない。翔も最初は戸惑っていたが実際見たことがないため今では覚えているかも定かではない。ただ保険として話しておく必要がある。
そして確認しておくべきことも…。
「そしてこれが最後、3つ目だ。端的に言う。俺には特殊能力がある。瞬時にクローンを作り出すことが出来る。」
「「クローン??」」
愛と老人の声が重なる。
「ああ。クローンだ。まぁ所謂そっくりさんの偽物だ。ロボットってことじゃないぞ?自分にそっくりの人間がもう1人いると考えてみてくれ。それだ。」
「自分とそっくりの人間を作り出せるってこと?」
「ああ。そうだ。しかも速攻な。時間を測ったことはないが1分くらいはかからないかな。まぁ30秒ってとこだ。それを俺は作り出せる。」
「え!!!!待ってそれってめちゃくちゃ凄いことじゃん!!!!」
愛は立ち上がり思わず大声を出してしまった。翔がすぐさましーっと人差し指を口に当てて愛を見るとハッとした顔をしてすぐに席に座り直し小さな声でごめんなさい…と呟いた。
「え、でももう1人の自分でしょ?めちゃくちゃ便利じゃん!もう1人私がいたら何しよっかなー!掃除に洗濯に買い物にもいってもらって、あっ!そうだ!働いてもらって私は家でのんびりしてられる!えー/最高だね!!」
小声だが興奮を抑えきれない愛は早口で話している。老人は少し考えたあと口を開いた。
「だがしかしクローン?じゃったか。そんな便利なものがあるのはすごいがどのくらいそっくりなんじゃ?例えば見た目はそっくりでも話せないってなるとすぐに気付かれてしまうぞい。」
老人の話を聞いて愛も、あーそっか。とボソッと言った。
「ああ、その通りだ。だからこそここからする話は絶対に人には言わないで欲しいんだがクローンのクオリティには代償がつく。」
「代償?」
「ああ。代償っていうのはクローンが真似る相手にとって物理的に大事なものの価値によってクオリティが上がるんだ。例えばだが利き腕が右手だとする。そうすると右手を代償にした時と左手を代償にした時では右手の方がクローンのクオリティが上がる。」
「それはつまり、その人にとって無くなったら困るものほど作られたクローンも本人に似るってこと?」
「そういうことだな。別にクローンを作ったからと言って特別頭が良くなるとか絶世の美女になるとかはない。完全にそっくり、最早本人と遜色ないレベルがそのクローンの最大値だ。」
「ちなみになんだが例えばわしにとって唯一の家族の愛を犠牲にするとしてわしと全く同じクローンを作ることは可能なのかのう?」
まぁそんなことはせんけどな。と笑っている老人。言いたいことはわかっている。
「いやそれは代償にはならない。あくまで本人にとって物理的にという制約がある。つまり別の物や人、あとは感情、まぁ愛だとか知識だとかそういう概念もだな。そういうのは代償にはならない。」
だからじーさんが愛の犠牲になっても愛のクローンは出来ないぞ?と言ってやるとまた老人は楽しそうに声をあげて笑った。