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(仮)  作者: fujisan
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あなたは何を払いますか?





「秋さん!!!」




そう呼ばれ男は振り返る。

男に駆け寄り満面の笑みを向けまるで忠犬かの如く振る舞う少年。いや、実際は20前後らしいがどうみても少年にしか見えない理由はきっと150cm程しかないその身長のせいだろう。




「俺もうお腹空いちゃったー!なんか食べたい!肉!肉がいい!!」


「まだ16時すぎだぞ?ったく昼にあんだけ食べたのにコスパ悪いやつだな。」



空は真っ赤な夕焼け空に染まっていて買出し中であろう主婦の姿や母親の手を取りながら歩く少女、大声で客寄せをする店先のおっちゃん、たくさんの人で賑わっていた。



秋と呼ばれたこの男。見た目は中年、多分30代かもしくは40超えているかのどこにでも居そうな普通な男。

傍から見たら少年と歩くその姿はどう見ても親子のそれで街に自然と溶け込んでいた。

秋は面倒くさそうに見える素振りをしながらも、まだ時間ある事を確認して近くにあった肉屋を顎で指し


「あそこにコロッケくらいならあんだろ。」


そう言い小銭を渡した。少年は嬉しそうにそれを受け取り肉屋の店主に渡された小銭を見せ


「これで買えるだけコロッケちょーだい!!!」


「おう坊主!!元気いいな!!腹が減ってちゃ可哀想だ!ほら!おまけでもう一個つけてやるからとーちゃんと2人で食べな!」


恰幅のいい肉屋の店主はコロッケ3つときっとクリームコロッケなのか少し小さい揚げ物3つを袋にいれ少年に手渡す。


「ありがとう!!」


少年は袋を受け取り小銭を渡すとすぐさま袋からコロッケを取り出して食べ始める。


「落とすなよ。」


そう声をかけまた2人は目的の場所へと歩き出した。







「あ、きたきた!」


「おーい!!!!」


少女は2人に気付き立ち上がった。少年は少女とその隣にいる老人に向けて腕を降っている。手元にあった袋の中は既に空であっという間に少年の胃袋へ消えていった。





「秋さん!翔ちゃん!もーめちゃくちゃ待っちゃったよー!」


「待ち合わせには間に合っただろ?」


「そうだけどさー!2人に会えるの嬉しすぎて急いで来ちゃったら1時間も早く着いちゃったよ!!」


「ほっほっほ。まぁこの人混みを歩くより1時間待ってる方がわしも楽じゃけどのう」


待ち合わせしていた場所にあったベンチに腰掛けた老人は白髪、白髭で腰がだいぶ曲がってきているがおおらかで優しそうなおじいちゃんだ。きっと60はゆうに越えて居るだろう。

少女は白いトップスにハイウエストのスカート、頭にはパンダのようなお団子ヘアをしていて今時の若い子がするような格好ではないが本人曰く気に入っているらしくそれはそれで少女自身がいい意味で垢抜けていない姿に拍車をかけている。きっと16、7ほどの見た目だが少年、翔と並んだら少しだけお姉さんに見えなくもない。なんせ翔がどう見ても12歳程にしか見えないのだから。




この2人は家族ではなく10歳頃に老人が少女、愛を引き取ってから一緒に過ごしているという。今ではどうみたって祖父と孫だが秋と翔も家族なわけではない。人にはわざわざ言う必要のないことの1つや2つは10つくらいはあるものだ。

全員がそれをわかっているからこそ丁度いい距離感で過ごせているのだろう。



「それにしてもやっぱりこの時間は人がすごいねぇ。」


愛がそう言うと先程までも人が多かったのに17時近くなってさらに人が増したこの商店街に少し人酔いし始めた秋は


「とりあえずどっか入るか」


そう声を皮切りに4人はいつも行く定食屋へ足を進めた。






元々秋と翔は2人で動くことが当たり前で、老人と愛に知り合ったのはたまたまその時行きつけの定食屋に足を運んだ時にいつもいる2人組が居るなと思っていたら向こうも同じことを考えていたらしく話かけてきてそれ以降たまにこうして時間を合わせて食事に行く機会が増えた。

いつもは軽い約束をしていれば一緒に食べるしいなければ気にしない、そんな関係だったがある時愛が聞いてきた。


「2人はなんのお仕事をしているの??」


翔は見た目は少年だが実際は成人していてもおかしくない。素朴な疑問を投げかけられた秋は


「あーまぁ、何でも屋さんってとこかな?」


「何でも屋さん?」


「そうそう。まぁ誰彼構わず依頼受ける訳じゃなくて知り合いからの限定なんだけどね。」


「ふーん。そんなお仕事があるんだねぇ!」


そんな会話をしつつもたまに最近はどんな仕事をしたのか聞かれるようになり話せる範囲で少し脚色をつけて教えてあげていた。

今日も4人で定食を食べながら話していると


「ねえ!次はいつお仕事なの??」


言うか迷っていたら間髪入れずに翔が答える。


「今日だよ!」


言ってから気付いたのだろう。ハッとした顔をして秋を見るが翔のピュアさは秋はよく知っている。悪気がある訳では無いし咎めるつもりもない。ただ必要以上に仕事の事を人に話すなと教えていたからか秋の顔をみて翔は安堵の表情をする。


「え!今日なの??えーいいな!…ねえそれって私もお手伝い出来ることある??」


「これこれ愛ちゃんや、ちょっと落ち着きなさいな。」


興奮気味にくってかかる愛を老人が宥めつつ口を挟むと


「えーだってさー、いっつも聞く度聞く度思ってたんだよね!何でも屋って言う割には結構暇にしてそうだしでも身なりは綺麗だしお金に困ってなさそうなのすっごい不思議だったんだよねぇ!…あ!別にお給料欲しいとは言わないよ!!あっ、いやちょっとは欲しいけど!うーん、じゃあここの定食1回ご馳走してくれるってのはどう???」



勢いよく回るその口に意外としっかり見られてたんだなと苦笑いをする秋に対して愛は続ける。


「大丈夫だよ!私もおじいちゃんも迷惑かけないしちょっとどんな感じか見てみたいだけだしこうやって知り合って一緒にご飯食べてるのも何かの縁だしそれにそれにっ…!絶対誰にも言わないよ!!約束する!!!」


とうとう立ち上がって全身で表現する姿に他の客は好奇の目を向けていたがそんなこと気にもせず言ってくる姿に半ば諦めの気持ちと無理な時は帰ってもらえばいいかと考え秋は承諾した。

翔は驚いていたがそれと同時に仕事仲間が増えたこと、まだこの4人で今日は一緒にいれることが嬉しいのか隠しきれていないその口元には少しだけ笑みが浮かんでいたのを秋は見逃さなかった。


「本当に大丈夫かのう?こんな老いぼれと娘いては邪魔にならんかい?無理せんでええよ?」


「あー大丈夫だ。ただし約束してもらいたいことがいくつかある。必ず守ると誓えるか?」


「誓える!誓えます!誓わせてください!」


「愛ちゃんや。一旦落ち着きなさいな。秋さん、わしは戦力にはならんが口だけは固いからのぅ。そこは安心してくだされ。」


ほっほっほ。と高らかに笑う老人を見て秋は息を吸ってそしてゆっくり吐き話始めた。








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