04-2 複雑な人間関係(後)
「なっ……!」
突然の乱入者、峻佑から告げられた事実に絶句する翼に対し、
「えっと、九崎くん。峻佑くんの言うとおり、あたしは峻佑くんと付き合っているの。だから、翼くんの告白は受け入れられないわ。ゴメンね」
ちひろは援護に入った峻佑の言葉を肯定すると、湿っぽくならないように、笑顔で翼の告白を断った。すると、
「ぼ、僕は諦めない! シュンスケ、って言ったか? ちひろさんの彼氏の座、譲ってもらおう! 今ここに、宣戦布告する!」
告げられた事実に絶句していたかと思ったら、翼は唐突に峻佑に対し宣戦布告してきた。
「はぁ? お前、何言ってんの? オレたちは相思相愛のカップルだぜ? 小学校のクラスメートだかなんだか知らないし、オレたちには幼稚園から高校入学までの10年の空白があるとはいえ、幼稚園の頃からの幼なじみ、なめんなよ」
峻佑も火がついたのか、ちひろを奪おうとする翼とにらみ合いのような状態になっていた。次の瞬間、それを止めに入ったのは意外な人物だった。
「お待ちなさい! わたくし、姫野渚もそこに参戦させてもらうわ」
翼の自己紹介から始まったこの騒動の間、ずっと教壇で待ちぼうけ状態だった渚が初めて口を開いたと思ったら、ちひろをめぐる峻佑と翼の争いに参戦する、という宣言だった。
「参戦する、って……ちょっと待ってよ! あたしそっちの趣味はないわよ!?」
峻佑と翼がにらみ合ってる所に唐突に参戦を宣言した渚に対し、当事者のちひろがもっともな反応をみせた。
「おっと、これはいらぬ誤解を与えてしまいましたね。真野ちひろさん、とおっしゃいましたか。大丈夫です。わたくしもそういった趣味はないですから」
渚はちひろに誤解されたと気づき、きちんと誤解だと話した。
「なんだ、良かった……って安心してる場合じゃないわ。じゃあ、いったいどういう意味だったのよ?」
ちひろはホッと一息ついて、改めて渚に問いかけた。
「わたくしが参戦する理由は、あなたですわ」
そう言って渚が指さした先は――
「お、オレ?」
まぎれもなく市原峻佑、その人であった。
「そう、あなたです。先ほど廊下でぶつかってしまったときに、わたくしは運命を感じたのです。それなのに、すでにあなたはお付き合いしてる人がいる……ならば、同じ転入生の九崎くん同様、奪い取るのみですわ! わたくし姫野渚、峻佑さんをかけて宣戦布告いたします!」
――2組で四角関係戦争が勃発しているころ、隣の3組では……
「栞、あなたに一目ぼれしちゃいました! 私と付き合ってください!」
3組に転入してきた渚の妹、栞が自己紹介のラストでいきなり耕太郎に告白していた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。俺、隣にいるみちると付き合ってるから、悪いけどその告白は受けられない」
耕太郎は突然の告白に焦ったが、流されることなくみちるという彼女がいることを理由にきちんと断った。
「ええ〜? そんなぁ〜。栞と付き合ってくれたら、イイコトしてあげるのにぃ〜」
栞はクネクネと腰を動かし、ペロリと舌舐めずりをしてみせた。そのしぐさに、耕太郎を除く3組の男子は前かがみになっていた。
「ちょっと、いい加減にしてよね! コーくんは私と付き合ってるの! 私たちの絆はそう簡単に壊して奪えるようなものじゃないんだから!」
みちるが立ち上がり、栞に向かって怒鳴りながら睨みつけた。
「栞はね、欲しいものは手に入れないと気が済まない主義なの。耕太郎君、あなたを栞になびかせてみせるわ!」
栞は耕太郎に指をつきつけてそう宣言すると、自己紹介を終えて担任に言われた席に着いた。もっとも、もめ事を嫌った担任が栞に与えた席は、耕太郎とみちるのいる、廊下側最前列から一番遠い、窓側の最後列だったのだが。
――この日転入してきた3人の男女がそれぞれ略奪愛を宣言したことは、あっという間に校内を駆け抜け、全校生徒の知るところになったのだった。