03-1 出会いは唐突に(前)
「お、今年はオレとちひろ、それとコータローとみちるが一緒のクラスか」
学校に到着し、新学年のクラス分けの掲示板を見に来た峻佑たちは、貼りだされた紙を見ると、後ろを振り返ってそう話した。峻佑が言ったとおり、峻佑・ちひろの2人が3年2組、耕太郎・みちるが3年3組だった。
「まあ、双子は同じクラスにはならないのが普通だから、それを考えたら最高の分かれ方じゃない? ほら、新しい教室行こ?」
ちひろはそう言って微笑むと、峻佑たちを促して昇降口のほうへ歩いていった。
「えー、であるからして、生徒の皆さんには――」
始業式の恒例行事、校長の長話。入学式は午後からのため、この場には2年生と3年生しかいないが、すでに半分近い数が立ったまま寝ていた。
(だりぃ……)
峻佑も例外ではなく、すでにまぶたは閉じかけ、足元がおぼつかなくなっていた。
「――校長先生、ありがとうございました。では、ここで転入生を紹介します」
どうやらやっと校長の長話が終わったらしく、進行役の教頭が式を先に進める過程で、転入生を紹介すると言った瞬間、“転入生”という単語に何かを察知したのか、寝ていた生徒の大半が目を覚ましてステージ上に注目が集まった。
「では、紹介します。3人は、ステージに出てきてください」
教頭の言葉とともにステージの袖から出てきたのは、男子1人と女子2人。女子の2人は顔がそっくりなので、双子のようだった。
「では、それぞれ自己紹介を。まずは、九崎くんから」
教頭がそう言って九崎と呼んだ男子にマイクを渡した。
「えー、今日からこの学校に転入してきました、九崎 翼です。クラスは3年2組になります。皆さん、よろしくお願いします。あ、最後にひとつ――」
翼と名乗った男子はそこで一呼吸置くと、マイクに向かって叫んだ。
「この学校にいるはずの真野ちひろさーん! 僕と付き合ってくださぁーい! ……以上です。ありがとうございました」
まさかの告白に全員がド肝を抜かれたが、中でも一番驚いたのは、名指しで告白されたちひろと、ちひろの彼氏である峻佑だった。
『な、なに? 今の……』
体育館が騒然とする中、峻佑はちひろにメールを送って訊ねてみた。だが、
『知らないわよ……。むしろあたしが訊きたいくらいよ』
ちひろもやはり戸惑いを隠せない様子だった。
「あー、ゴホン。気を取り直して、次。姫野渚さんと栞さん」
教頭が咳払いをして生徒たちを黙らせると、次の女子にマイクを渡した。
「はい。初めまして、皆さん。本日よりこの学校にお世話になります、姫野 渚と申します。クラスは3年2組になりますので、よろしくお願いしますね」
渚と名乗った女の子はごく普通に挨拶を終えると、隣にいたもう1人にマイクを渡した。
「初めまして、皆さん。双子の姉、渚とともに転入してきました、姫野 栞です。クラスは3年3組ですので、どうぞよろしくお願いします」
栞が挨拶を終えると、3年生8クラスのうち、2組と3組からは歓声が上がり、逆にそれ以外のクラスからは「え〜」や「あ〜あ」などのため息が漏れていたが、これは仕方ないだろう。2組と3組にはすでに解散したとはいえ1年生にして校内に非公認ファンクラブのあった真野姉妹がいる上に、女子受けしそうな翼、さらにはこれまた美人の双子、姫野姉妹も2組と3組に割り当てられたのだから。
「えー、ではこれにて始業式を終わります。各自教室に戻り、新担任の先生とホームルームを行って下校してください」
生徒たちのため息などどこ吹く風で教頭が式の終了を告げると、3年生は明暗がはっきり分かれた表情でそれぞれ体育館を出ていった。