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12-2 姫野姉妹、もうひとつの秘密(後)

「わたくしが約5ヶ月、栞ちゃんが約4ヶ月半ぐらいですわ。わたくしたちの両親は罹らなかったのですが、祖父が60歳でこの病を発症し3ヶ月で、曾祖母にあたる方が55歳で発症し、わずか1ヶ月で亡くなった、と聞きました」

 渚はもう病気の治療は無理だと諦めているのか、冷静にジェンの質問に答えた。だが、その顔は数日のうちにすっかり青白くなってしまっていた。

「そうか……俺がまだ生きていたころ、知り合いの魔法使いがこの病を研究していたんだが、運命ってやつは残酷でな、そいつ自身が研究途中でこの病を発症して逝っちまった。せめて研究のレポートだけでも見つけて研究を引き継ごうと思ったんだが、すでに何者かが持ち去った後で、治療法などを探すことはできなかった。その後俺自身も流行病で死んじまってこの有様だ」

 ジェンは渚たちに申し訳なさそうな表情で話した。

「いいの、栞たちはもう諦めているから。でも、たとえ死んでしまうとしても、その前に1日だけでもいいから彼氏を作ってみたくて、この竹崎高校に転校してきたの。ここには双子の魔法使いと、それを受け入れている彼氏がいるって噂を聞いたから、ね」

 栞はジェンに気にしないで、と首を振ると、ようやく本題だと言わんばかりに、自分らがここに来た理由、峻佑たちに接近した理由を明かした。

「じゃあ、もしかして峻佑くんやコーくんに一目ぼれしたとか言って、私たちから奪い取ろうとしたのって、あなたたちがもうすぐ病気で死んでしまうから、その前にやりたいことをやりたかった、ってこと?」

 みちるが栞の話した“理由”を聞いて、2人に訊ねると、2人は黙って首を縦に振った。

「そうだったの……それならそうと言ってくれれば、と思ったけど、いきなりそんな話されても信じることなんてできないわね。でも、話してくれてありがとう。あたしたちとしても、そんな境遇の人に意地悪するような性格はしてないわ。そういう事情なら――」

 ちひろが何か言いかけたのを遮って、

「だったら、明日1日、オレはキミたちに全面的に協力しようと思う。ちひろ、それでいいか? みちるとコータローはどうだ?」

 いつの間にかジェンから峻佑に主人格を戻していたらしく、峻佑が渚の彼氏役を買って出、ちひろに確認すると、みちるたちはどうするのか訊ねた。

「あ、あたしはもちろん構わないわよ。ってか、それを言いかけたところでおいしいとこ峻佑くんが全部持ってっちゃうのってズルくない?」

 ちひろは頷いたが、峻佑にいいとこ持ってかれたと少々不満げな表情だった。

「ああ、俺も協力するぜ」

「もちろん、そんな話聞いてなお協力しないなんてヒドイことはしないわよ」

 耕太郎とみちるもしっかりと頷いてみせた。

「みなさん……ありがとう。この病のことを家族以外に話すのは初めてだからどうなるか不安でしたが、優しい方々でよかったですわ。でも、おそらくもうわたくしたちにはホントあとわずかな時間しか残されてないのかもしれません。なので、峻佑さん。最後にわたくしを強く抱きしめてもらえませんか?」

 渚は青白い顔で無理に笑顔を作ると、峻佑にそう頼んだ。

「ああ、わかった。でも、これで最後なんて言うなよ。明日、ちゃんと思い出作ろう。どこに行きたい?」

 峻佑は頷くと、渚を抱きしめながら明日のことを話し、訊ねると、

「ありがとう、峻佑さん。わたくし、明日は――」

 渚は峻佑に礼を言って、何かを言いかけたが、そのまま峻佑に体重を預けてきた。

「え、ちょ、渚さん? 渚さんっ!」

 峻佑が呼びかけるが、渚が反応を見せることはなかった――



 翌日、こちらは予定通りに栞と耕太郎は街に出たが、目の前で渚を失ったショックで2人ともあまり楽しむことができず、早々に引き揚げることにした。耕太郎が栞を家まで送り、じゃあな、と帰ろうとした耕太郎の服のすそを栞が掴んで引きとめた。

「お願い、栞も昨日市原くんがお姉ちゃんにやったみたいにぎゅっと抱きしめて……」

 振り向いた耕太郎に、栞はそんなお願いをした。

「栞さん……キミは昨日の渚さんみたいに抱きしめてる途中で逝ったりしないでくれよ」

 耕太郎は表情を和らげると、栞の背中に腕をまわして強く抱きしめた。たっぷり1分か2分ほど抱きしめ、耕太郎が腕を解いて一歩離れると、

「ありがとう、耕太郎くん。それじゃ、さよなら……」

 栞はあえて“バイバイ”ではなく“さよなら”という言葉を使って、耕太郎に別れを告げた。

「さよならなんて言わないでくれよ。また、月曜日に学校で会おうな。約束だぜ」

 耕太郎は栞に“約束”を取り付けると、姫野家の前から走り去った。栞の前ではこらえていたが、走り去った耕太郎の目には涙がにじんでいた――

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