12-1 姫野姉妹、もうひとつの秘密(前)
「どういうつもりなの?」
放課後、峻佑、ちひろ、みちる、耕太郎の4人は生徒会室で渚と栞を問い詰めていた。昼休みが終わるとき、『話があるから放課後に生徒会室に来て』と言っておき、2人が入ってくるなりちひろが単刀直入に切り出したのだ。
「どういうつもり、とはあの魔法を仕掛けた封筒のことを指しているのかしら?」
渚が悪びれた様子もなく逆に訊ねると、
「そう、それよ。なんでこんな荒っぽいマネをしたの?」
みちるも、耕太郎に危害が及んだこの件では怒りもひとしおらしく、鼻息を荒げて渚たちに詰め寄った。
「そうね、この手段を取ってダメだった以上、わたくしたちはもう峻佑さんや沢田さんから手を引きますわ。いろいろと混乱させてごめんなさいね」
ちひろとみちる、それぞれに詰め寄られた渚はふう、と一息ついて軽く目を閉じると、峻佑たちから手を引く、と言って謝ってきた。
「なぜだ? あれほど好戦的だったのに? もちろん、手を引いてくれることはうれしいんだけど、あまりに急な展開にちょっと気味が悪いぜ」
唐突に飛び出した渚の謝罪に、峻佑が怪訝な顔をして訊ねた。
「そうですよね、あそこまでしてしまった以上、理由も話すのが筋ですよね。わかりました。でも、このことはこの場だけの秘密でお願いしたいのですが、構いませんか?」
渚は心から申し訳なさそうな顔になると、これから話すことは内密に、と言ってきた。
「ああ、わかった。この生徒会室の壁は防音加工が施されてるから、扉が閉まってる以上外に音が漏れる心配はしなくていい。オレたちは人の秘密をそこらで話すような不躾なマネはしないと誓える。――オレたちだって、人に話せない秘密を抱えてるわけだしな」
峻佑は扉の外側に「会議中」の札をかけて他の人間が入室してこないようにカギをかけてから、渚にそう頷いてみせた。
「もちろん、あたしたちも信頼してちょうだいというのはちょっと無理な話かもって思ってるけど……ところで、その話っていうのはこの4人みんなで聞くべきもの? それとも、峻佑くんだけに明かしたいとか、そういう考え、あったりする?」
ちひろが話の内容について訊ねると、
「特にどっちかというわけではないので、このまま聞いてくだされば、それで結構ですわ。まあ、あまりもったいぶっても仕方のないことなので、始めますわ。簡単に言ってしまえば、わたくしたちには、時間がなかったのです」
渚はちひろの思いは特に気にしないと言って、話し始めたのだが、あまりに簡潔にまとまりすぎていたために、4人とも目が点になっていた。
「へ? 時間がないって、どういうことだ?」
峻佑がハッとして訊ねると、
「実は、わたくしと栞ちゃんは、不治の病に罹ってしまっているのです。わたくしたちの家系では4人に1人という高い割合の発症率と、一度発症したら治療手段のない、確実な死をもたらす謎の病気に……」
渚は悲痛な表情で自分らが病気であることを告げた。
「“マギルス”か……」
不意に聞こえたジェンの声。見ると、一瞬で峻佑と主人格を強制的に交代させてジェンが表に出てきていた。
「そう、その“マギルス”に罹っているのです。なんでも、魔法使い特有の病だと聞いていますが……」
渚はジェンが幽体として出てきてないので特に怖くはないのか、ジェンの言葉に頷いて、軽く補足した。
「ご先祖様、それってどんな病気なんですか? 少なくともあたしやみちるは聞いたことない病名ですけど」
ちひろも首をかしげながらジェンに訊ねた。
「昔、ヨーロッパで魔女狩りが横行していたころ、俺たち魔法使いを魔女狩り以上に悩ませた病気で、魔法使いたちの持つ魔力そのものが暴走して病原体と化し、身体を内側から破壊して死に至らしめるという非常に厄介なシロモンだ。当時はもちろん、現代でもその治療法は確立されてなく、最初の発作から大体半年以内には死亡する。お嬢さん方、キミらは最初の発作からいま何ヶ月だ?」
ジェンが詳しい説明を入れて渚たちに訊ねた。