11-3 破局の危機(3)
「来ないな……どうしたんだろ?」
4限目の体育の授業が終わり、ちひろが生徒会室にやってくると、みちると耕太郎が来ていた。しかし、すでに2組の他の男子は戻って昼食を食べているにも関わらず、峻佑の姿はどこにもなく、待てど暮らせど峻佑は現れず、ちひろがポツリとつぶやいた。
「その約束を忘れちゃって、どこかでお昼食べてるのかな……」
みちるがあまり考えたくない可能性を口にすると、
「峻佑は、ちひろちゃんが何か掴んだかも、って言って俺も生徒会室に来ないかって誘ってくれたから、忘れてるってことはないはずだけど……」
耕太郎が峻佑をかばうように2人に言った。
「じゃあ……もしかしてもう手遅れ?」
ちひろは最悪のケースに思い至って顔が青ざめていった。
「そういえば、ちひろちゃん。あの封筒について、何かわかっていたの?」
耕太郎が思い出したようにちひろに訊ねた。
「え、あ、うん。休み時間に峻佑くんの目を見たときに、瞳の輝きが半分以上失われてたのよ。あの濁り方からして、何らかの魔法にかけられた可能性が極めて高いわね。たぶんだけど、封筒を開封したときのあのまぶしい光が魔法の発動だったんだと思うわ。ただ、光を見た、あるいは浴びた者すべてに影響を及ぼすわけじゃなく、峻佑くんと耕太郎くん、それぞれをピンポイントで狙った、と考えるのが妥当ね」
ちひろは頷くと、封筒についての推測を話した。
「え、じゃあ俺の目も峻佑と同じように濁ってるのか?」
耕太郎が焦ったようにちひろに訊ねると、
「ちょっと見せて。――うーん……峻佑くんほど大きな影響は受けてないみたい。もうほとんどいつも通りよ。でも、なんでだろ?」
ちひろは耕太郎に近づいて、目をじっと見てみたが、ほとんど濁りのない、至って普通の目をしていた。
「無事ならこの際理由とかはどうでもいいよ。とにかく、峻佑くんを探そう。峻佑くんやコーくんを標的にするのって、犯人はあの2人で確定でしょ」
みちるはさっと立ち上がると、犯人は姫野姉妹だと言い切って、探しに行こうと言って生徒会室を出ていき、ちひろと耕太郎もそれに続いた。
早く峻佑を見つけないと、と焦っていた3人だったが、意外にもすぐに見つかった。生徒会室を出て、階段を下りようとしたら、峻佑がゆっくりと階段を上がってきていたのだ。
「峻佑くん!」
ちひろが呼びかけると、峻佑は顔を上げてちひろを見た。しかし、その目にはいつもの輝きがなく、焦点もあっていないように見えた。
「ちひろ……」
峻佑はちひろの目の前まで来ると、口を開いた。
「どうしたの、峻佑くん?」
ちひろが訊ねると、
「…………れよう」
峻佑は小さな声で何かをつぶやいた。
「えっ? いまなんて言ったの?」
ちひろが聞き返すと、
「ちひろ、別れよう。オレたち、もう終わりにしよう」
峻佑の口から飛び出したのは、おそらく誰も予想しえない言葉だった。
「どうして? 急にそんなこと言い出すなんて、峻佑くんらしくないよ。何かあったの?」
ちひろは峻佑がこうなった原因の大方の予測はついているが、あえて何も知らないふりをして、峻佑に理由を訊いた。
「わからない。けど急にちひろへの気持ちが冷めちまったんだ。だから、別れて一度ただの友達、そして生徒会の役員仲間って感じにリセットしよう」
峻佑は理由を訊かれて困惑した表情になると、つぶやくようにそう話した。
「そう……わかったわ。でも、ひとつだけ条件があるの。一発、殴らせて。いい?」
ちひろはふう、とため息をひとつ吐くと、それを受け入れる条件として殴らせろと言い出すのだった。