11-2 破局の危機(2)
「どうしたの、峻佑くん? 今日の峻佑くん、なんか変だよ?」
これまで授業中に居眠りなど一度もなかった峻佑が、1限目の英語で居眠りをして教師に教科書のカドで叩かれるまで起きなかったり、2限目の数学ではちひろほどではなくても得意科目と言えるはずなのに、当てられた問題を解けずに、クラスメートだけでなく教師にまで心配される始末。幸い3限目のこの日本史ではこれといった事件はなかったが、見かねたちひろがこうして聞きに来ている、というわけなのだった。
「あ、ああ……オレ自身もどうなってるのかさっぱりなんだ。英語ん時は、いつ寝ちまったのかわからないまま、気が付いたら教科書で叩かれてた。数学ん時も、いま問題を見直せば難なく解けるのに、なぜかあんときは本気で解き方が出てこなかった。今さっきの日本史も、何度か意識が飛びかけていたんだよ。自分で自分がコントロールできてない感じなんだよな」
ほかならぬ峻佑自身が一番困惑しているようで、そうつぶやいた。と、
「峻佑くん、ちょっといい?」
ちひろが唐突に峻佑の肩に手を置いて、ずいっと身を乗り出すように峻佑の目をのぞきこんできた。
「お、おいちひろ? どうしたんだよ、急に? 教室ではこういうことを避けてきたはずだろ?」
驚き、戸惑いを隠せないような表情で峻佑はちひろに訊ねたが、それら一切を無視してちひろは峻佑の目を見つめ続けた。やがて、
「ふう、もういいわよ。それで、昼休みに生徒会室で話したいことがあるから、4限目の体育が終わったらお昼は生徒会室で食べましょ。OK?」
大きく息を吐いて峻佑から離れると、ちひろは体操着の入った袋をカバンから引っ張り出しながら、峻佑に昼休みに生徒会室へ来るように言って、更衣室へ駆けて行った。
「あ、ああ……ってか廊下は走るなよ……」
峻佑のぼやく声は、当然ながらちひろには届くこともなく、峻佑はすばやく体操着に着替えると、校庭に飛び出していった。
体育は2〜3クラスが合同で行うことになっていて、峻佑たち2組は、1組と3組が一緒になっている。今日はサッカーでクラス対抗だったので、1組と3組がやってる間に、峻佑は3組のベンチに耕太郎がいるのを見つけ、暇つぶしに話をしに行った。
「よぉ、コータロー」
後ろから肩をトントンと叩いて片手をあげて挨拶すると、
「おう、峻佑か。1限と2限でいろいろとやらかしたらしいじゃねえか。3組まで噂が届いてるぜ。何があったんだ?」
耕太郎は峻佑に気付くと、ベンチから少し離れて苦笑いしながら峻佑に訊ねた。
「オレにもわかんねえんだ。変わったことと言えば、今朝、下足箱に差出人の書いてない封筒が入ってて、開けたら中に閃光弾みたいなものが仕込んであって驚いたことくらいだが、そんなイタズラで動揺してたんなら、逆に居眠りなんかできっこないってことで参ってるんだ」
峻佑が今朝の手紙のことを話すと、耕太郎が食いついた。
「え、それお前んとこにも入ってたのか? 実は俺んとこにもあって、昇降口で開封して、モロに閃光をくらって、しばらく目が見えにくくて参ったぜ」
耕太郎の言葉に、今度は峻佑が反応した。
「お前も? なあ、今日の授業で何かおかしな感じとかはしなかったか? 突然意識を失ったりとか」
まったく同じイタズラを受けていたことがわかった峻佑は、アレに何か手掛かりがあるかも、と思い耕太郎の肩を掴んで揺さぶりながら訊ねた。
「落ち着けって、峻佑。いや、確かに変と言えば変なんだが、俺の場合は峻佑と逆だな」
耕太郎は焦る峻佑を引き剥がすと、頬をポリポリかきながら、そう話した。
「逆、だって? どういうことだ?」
峻佑はピタリと動きを止めて再度訊ねると、
「まあ、あまり誇れることじゃないが、相変わらず俺は普段の授業で居眠り連発して怒られてるんだ。もちろん、問題を当てられてもあまり解けずに教師の小言を食らうんだけど、今日は一度も居眠りしてないし、オレ自身が一番驚いてるんだが2限の英語で英文の訳を当てられたときに、誰の助けも借りずにすらすらと訳文が出てきたんだよ。教師も驚いて“何があった?”とか聞いてくるし、もうわけわかんねえ」
耕太郎は自分の身に起こったことを話すと、頭を抱え込んでしまった。
「確かにオレと真逆だな……なあ、コータロー、もしかしたらちひろが何か掴んだかもしれないから、昼休みに生徒会室へ来ないか?」
峻佑は少し考え、耕太郎にそう持ちかけた。
「ん、そうだな。みちるもたぶん行くだろうし、俺も混じらせてもらうか」
耕太郎は快諾し、峻佑は2組のゲームが始まるので自分のクラスに戻っていった。