11-1 破局の危機(1)
「ん? なんだ、こりゃ……」
アンチ生徒会を壊滅させた次の日、峻佑の下足箱に差出人の名前が書いていない、封筒に入った手紙が1枚入っていた。
「峻佑くん、どうかしたの?」
同じクラスで下足箱も近い場所にあるちひろが上履きに履き替えながら訊ねてきた。
「いや、ちょっと手紙が入ってただけだ。封筒も特に飾りっ気ないし、ラブレターの類じゃないだろうから心配いらないよ。どうせまた恨み節だろ」
峻佑は封筒を開封せずにそのままカバンに放り込み、面倒くさそうにつぶやいた。というのも、峻佑がちひろと交際を始めた直後から、1ヶ月に1回は2人の仲の良さに嫉妬したような連中からの、いわゆる“不幸の手紙”のようなものが彼の下足箱に入れられている。誰がやったのか調べようにも、ワープロで書いてあるため、筆跡などで差出人を暴くことができないでいた。もちろん、魔法を使えば一発で差出人の正体を暴くこともできるが、魔法の存在が知られるリスクを考え、使わずにきたのだった。
「ああ、あれまだ来てたんだ。まあ、でも確かに気にするようなものじゃないわね」
ちひろも納得したようで、それ以上は何も訊かずに教室へ向かった。
(さて……まあ見る価値もないだろうけど、一応目を通しておくか……)
教室に入ると、ちひろはよく他のクラスメートたちと雑談を始める。さすがに家でも生徒会室でも一緒なので、教室でだけはあまりイチャイチャするのはやめようということにしていた。周囲の反感を抑える意味でもそれは効果的で、ずっと続けている習慣になっていた。そうなると峻佑は自分も他のクラスメートと、と周りを見たが、あいにく誰もいなかったので、先ほどの手紙を開いてみることにした。すると、
「うわっ、なんだ!?」
封筒の端を破り、開封したとたんに目を開けていられないほどの眩しい光が封筒から放たれ、峻佑は驚いた。もちろん、驚いたのは峻佑だけでなく、近くで雑談していたちひろやクラスメートも何が起こったのか、というような表情で寄ってきた。
「な、なに? 今の……」
他のクラスメートはたまたま光からお互いの身体を盾にして身を守れたが、峻佑が封筒を開けるのをチラチラ見ていたちひろは一瞬とはいえまともに光を見てしまい、視力を一時的に奪われたように、ふらふらと机やイスにぶつかりながらもなんとか峻佑のところにたどりつき、訊ねた。
「わからん。さっきの封筒を開けたらいきなりコレだからな。で、中身は……と、白紙?」
峻佑もまだよく見えていないのか、繰り返しまばたきをしつつも、封筒の中身を取り出して、ようやく見え始めた目で紙を確認すると、白紙だった。
「白紙って……あ、ホントだ。じゃあ、今の光は……」
ちひろもようやく目が見えるようになり、峻佑から紙を見せてもらうと、確かに何も書いてなかった。一応、あぶりだしなどの細工の施された紙の可能性も考え、蛍光灯の光にかざしてみたりもしたが、そのような細工の痕跡もなく、完全な白紙だった。
「閃光弾でも仕込んであるのかとも思ったけど、その紙以外、この封筒には何もなかった。わけわかんねえけど、ま、単なるイタズラかな。ゴミだ、ゴミ」
峻佑は考えるのが面倒になったらしく、イタズラで片づけることにし、ちひろから白紙の紙を受け取ると、封筒ともどもゴミ箱に投げ込んだ。
一方、ほぼ同時刻――
「お、なんだこれ……うわっ!」
耕太郎がみちると一緒に登校してきて、下足箱を開けると、そこには1通の白い封筒があり、何の気なしに開けた瞬間、激しい閃光が走り、耕太郎もみちるも驚いて尻もちをついていた。さらに、昇降口という場所柄、近くにいた他の生徒たちも巻き込まれて視力を奪われていた。
「うーん……なに、今の?」
みちるがまばたきしながら立ち上がって、耕太郎に訊ねた。
「わかんね。なんかのイタズラかもな。中に入ってた紙は白紙だし、もしこれがテキトーにそこらの下足箱に放り込まれていたら、立派なテロだな」
耕太郎は中の紙が白紙とわかると、それをくしゃっと丸めてゴミ箱に投げ込んだ。
「うん、後で生徒会が調査してみるよ」
みちるは頷くと、まだちょっとふらついている耕太郎を支えながら教室に向かった。
――これがこれから先起こる事件の始まりになることを、誰も知る由がなかった。