09-1 中庭の決戦(前)
《ヒッヒッヒ……コレ以上先ニ進むナラ安全ハ保障シナイヨ……》
峻佑たちが本校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下に差しかかったところで、どこからともなく不気味な声が響いてきた。
「誰だっ!」「誰なのっ!?」「誰っ! あたしたちを生徒会執行部とわかっててやってるの!?」
峻佑、みちる、ちひろは怪奇現象(?)にも慣れているのか、不気味な声に言い返していたが、
「…………」
賢悟は早くも顔が青ざめ、ヒザはガクガク震え始めていた。それでも、まだ戦意は失ってないらしく、歩みを止めるまではしなかった。
「おい、賢悟? 大丈夫か、顔が青いぞ」
生徒会室を出てから一言もしゃべっていない賢悟に違和感を感じた峻佑が振り向いて訊ねた。
「だ、大丈夫っす。べ、別にビビってるわけじゃないんすよ、コレ」
賢悟は必死に強がってみせるが、賢悟が怖がってるのは誰の目にも明らかだった。
「賢悟くん、無理はしないでいいよ。彼らがホントに魔法を使える何者かを仲間に加えていたら、賢悟くんにできることは何もなくなっちゃうから。キツイ言い方かもしれないけど、仮に転校生の姫野さん姉妹が向こうについていたとしたら、私たちが全力で向かっても勝てる見込みは30%がいいところ。ましてや賢悟くんや峻佑くんを守りながらなんて言ったら、間違いなく勝てない。だから、この先も一緒に行くのは構わないけど、ひとつだけ約束して。もし、アンチ生徒会側に姫野姉妹のうち片割れでもいたら、すぐに逃げて。いい?」
みちるがいったん立ち止まり、賢悟の目を見て諭し、そんな約束をした。
「は、はい。わかりました。……よしっ! すんません、もう大丈夫ッス!」
賢悟はみちるの真剣なまなざしにただ頷くと、深呼吸をして落ちつきを取り戻した。
「ん、どうやら声の主はアレだな」
賢悟とみちるが話している間、周囲を見回していた峻佑が渡り廊下の本校舎側の扉すぐ上に設置されたラジカセに気づいた。
「ずいぶん複雑な配線してやがるが、カラクリは読めた。特殊なセンサーの受信機か何かを関係者にはつけておき、つけてない人物がここを通りかかると、センサーが反応してさっきの声が流れる、ってとこかな。ったく、無駄に凝ったモノ作りやがって……」
峻佑が背伸びをしてラジカセを引きずり下ろし、アレコレ調べた結果、とてつもなく凝った仕組みになっていた。
「幽霊の正体見たり枯れ尾花、ってヤツっすね。こんなんに少しでもビビってた自分が恥ずかしいッス」
賢悟が少し顔を赤らめてつぶやいた。さっきまで否定していた、ビビってたことを自ら肯定してしまったが、3人とも気づかないフリをすることにした。
「な……に? 扉が開いてる……?」
峻佑たちがアジトの前に着くと、閉ざされているはずのアジトの扉はすでに開いており、中はもぬけのからだった。まさかの展開に絶句する峻佑に、
「先輩! ここに何か手紙らしきものがあります!」
賢悟が扉の横に無造作に張り付けられた紙切れを見つけ、峻佑を呼んだ。
「なんだって?」
峻佑が賢悟から紙切れを受け取って文面を目で追った。
――ハッハッハ、無能な生徒会諸君、最終決戦とシャレこもうじゃないか。キミらが勝てばもちろん我々は解散し、OBはともかく現役メンバーは真っ当ないち生徒に戻ろう。だが我々が勝てば、キミら生徒会を廃し、我々が真・生徒会として実権を握らせてもらう。互いの存在意義をかけた最終決戦、中庭で待っている。by神楽
アンチ生徒会の創設から今春卒業するまでずっとリーダーであり、卒業してOBになっても未だちょくちょく顔を出しているという噂のあった神楽が直に果たし状を出してきた。完全に生徒会を挑発している内容に、峻佑は静かな怒りに燃え、無表情のまま紙を引きちぎった。
「――行くぞ、中庭だ」
普段の峻佑らしくない低い声色の放つ迫力に、誰も何も言えずに無言で後をついていった。