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07   帰ってきたアンチ生徒会

 翌、木曜日の早朝、まだ登校時間には早過ぎるにも関わらず、通学路を往く4人の男子生徒がいた。いや、4人のうち2人は制服を着ていないので、普通の通学時間帯であれば、明らかに不審者扱いをされていただろう。そんな怪しげな4人組の、私服を着ている2人のうち、1人が口を開いた。

猿義(サル)、本当に今度こそ生徒会(ヤツら)をぎゃふんと言わせることができるのか? 正直、仙堂が会長をやっていたときより今の生徒会は手ごわい。ましてやお前が1年だった時と比べたら天と地ほどの差がある。それでも勝算はあるというのか?」

 すると、制服を着ている男――猿義が口を開いた。

「もちろんです、神楽さん。ヤツらが手ごわいのはひとえに魔法という未知数のチカラがあるから。ならば、こちらにもそういう仲間を作ればいいだけ。そこで、彼らの出番ってわけです」

 生徒会の魔法使い対策として猿義が招聘(しょうへい)したのは――

「初めまして、ですね。ボクの名は熱田(あつた) (ひかる)。生粋の魔法使いではないけれど、ある程度魔法が使え、遥か昔に魔法使いたちによって作られた非合法地下魔法組織【ノアの箱船】第28代総帥です。現生徒会の人たちとは2年前にひと悶着あったので、その時の借りを返すためこの場にやってきました」

 もう1人の私服の男――輝が自己紹介して(うやうや)しく一礼した。

「オイラもいるぜっ! ちー姉やみー姉の従弟なら、戦力としては文句ないだろ?」

 自分を無視するな、と言わんばかりに小さな背で精いっぱい背伸びして存在を主張している制服の少年、琢磨(たくま)。ちひろやみちるの従弟である彼は、猛勉強の末、無事に竹崎高校に入学し、2年生になっていた。だが、どこで道を誤ったのか、ちひろやみちるの所属する生徒会と敵対するアンチ生徒会の一員になっていた。とは言っても、ちひろもみちるも彼が後輩になったのは知ってても、アンチ生徒会に入ったことまでは知らないのだが。

「なるほど、目には目を、魔法使いには魔法使いを、か。だが、生まれながらの魔法使いでないなら、どうやって魔法を身につけた? それと、生徒会側は生粋の魔法使い2人に、噂では会長の市原もどうやってかは知らんが魔法を使えるというぞ。2人で3人を相手にするつもりか?」

 神楽はある程度納得がいったようだが、口の端を歪めて薄く笑うと、輝に立て続けに疑問を投げかけた。

「オイラはもちろん生まれながらの魔法使いなんだぜっ! ついでに言えば、ちー姉やみー姉はたぶん今でもオイラのこと苦手にしてるかも」

 無駄に元気のいい琢磨は自分こそがちひろやみちるに対しての秘密兵器だということを主張していた。

「ボクが魔法を身に付けたのは、コレを使ったんですよ。この薬は、先代の総帥だった父が若い頃に完成させた、“誰でも魔法使いにできる薬”です。そして、長年の研究の末、12年前に実用化させ、組織を一気に巨大化させた。父やボク自身も実用化された時点で投与し、魔法を使えるようになった。人間って、誰でも潜在的には魔法の力、すなわち魔力を持っているんです。それを顕在化させるのがこの薬、ってわけです。だけど、2年前にこの街で真野姉妹を仲間に引き入れようとして失敗し、戦いに敗れてボクは街を出た。それからこの薬をさらに改良し、完成したのがこれです。カプセル剤として持ってきたので、飲んでください。これで頭数としては4人。それと、猿義さんが他に同志を見つけたとか言ってましたよね?」

 輝は神楽と猿義に改良した薬のカプセルを手渡し、猿義に話を振った。

「もちろん、熱田君の言うとおり拙者はさらなる同志に出会えた。彼女たちがその気であるならば、放課後に我々のアジトに来る手はずになっている」

 猿義はそれだけ話すと、輝に渡されたカプセルを飲み込み、それを見て神楽も同様にカプセルを飲んだ。効果はすぐにあらわれ、

「な、なんだこの身体の中からチカラがわき上がるような感覚は……」

 神楽は未知のチカラを手に入れた感慨に打ち震えていた。



 ほぼ同時刻、市原家――

「な、なんだぁ!?」

 まだ起きる時間には少し早いが、地震のような揺れを感じて峻佑は飛び起きた。すぐに携帯を操作して情報を調べようとしたのだが、この時間、どこかで地震が起こったというニュースはどこにもなかった。少し考え、もしやと思った峻佑は部屋を出てちひろとみちるがいる隣の部屋の扉を開けた。

「ちひろ、みちる、起きて……ってまたやっちまっ――」

 何度やっても学習能力のない峻佑は、部屋のトラップに引っかかり、バゴン、というすごい音でタライの顔面直撃を受けていた。

「いてて……ちひろもみちるも起きてるんだったらトラップ止めてくれよ……」

 すでにちひろもみちるも起きていて、ベッドの上で考え事をしているようだった。そこに峻佑が入ってきてタライのトラップに引っかかったのを見て笑いをこらえるのに必死な2人に、峻佑は涙目で抗議した。

「ゴメンゴメン。まさか峻佑くんが起きてくるなんて思ってなかったんだもの。で、起きてこっちに来たってことは、峻佑くんも今のを感じたの?」

 みちるは謝ると、急に真面目な顔して峻佑に訊ねた。

「ああ、最初は地震かと思ったけど、そんな情報はどこにもなかった。んで、もしやと思って聞きにきた。なあ、ちひろ。今の揺れはなんだったんだ?」

 峻佑は頷き、今度は逆にちひろに揺れの正体を訊ねた。

「たぶん、いえほぼ確実に、今の揺れは魔力振動ね」

 ちひろは確信をもって、そうつぶやいた。

「魔力……振動?」

 聞きなれない単語に峻佑が聞き返すと、

「分かりにくい話だから別のものに例えるね。たとえば、パンチを繰り出すと、その拳の速さで、わずかな風が生まれるでしょ? それと同じような話で、魔法使いが内に秘めたチカラを解放した瞬間、魔法を扱える者にしかわからない振動があるのよ。実際にやってみるね?」

 みちるがたとえ話を交えて説明をし、実演してくれるというので、峻佑は頷いた。その直後、峻佑は見えない重圧(プレッシャー)に襲われ、汗だくになっていた。

「……とまあ、こんな感じにね。今さっきの揺れもそれだと思うんだけど、問題は誰なのか、ってことなんだよね。私たちが知ってる中で魔法使いなのは親類を除けば姫野姉妹と九崎くんだけ。でも、3人じゃない気がするのよ。なんとなくだけど、魔力振動と同時に感じたオーラはごく微弱で、それでありながら獣のような荒々しさを持っている、そんな感じ。なんだろ、このイヤな予感……」

 みちるは解放したチカラを収めると、表情を曇らせてつぶやき、

「そうか。まあ、とりあえず、ガッコ行く支度しようぜ。生徒会役員が遅刻したらシャレにならないだろ」

 峻佑はみちるの肩をポンとたたくと、そう言って姉妹の部屋から出ていくのだった。


この回から出てきた琢磨のエピソードは前作VOL.23〜25を、輝のエピソードはVOL.49以降をどうぞ。

猿義や神楽など、アンチ生徒会のレギュラーメンバーについては、前作の各所に散らばってますので……

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