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06   対策会議

「……なるほど。そんなことがあったのか」

 耕太郎はすぐにやってきたみちるを家に入れると、自室で話を聞き、深く頷いた。

「うん。あの2人が魔法使いだったってだけでも驚いたのに、魔力の強さには自信があった私たちを遥かに上回るチカラの持ち主だなんて……」

 みちるは改めてその現実を見つめてため息をつき、

「峻佑はみちるたちのご先祖様の幽霊が憑いてるからまだなんとかなるとしても、俺はどうすればいい? みちるやちひろちゃんよりも強いチカラを持ってるんじゃ、守ってくれと言ってもダメかもしれないんだろ? なんとか自分で自分を守る手段はないもんかな?」

 耕太郎はみちるに自衛手段の有無を訊ねた。

「そうね……彼女たちは峻佑くんの奪取に失敗した以上、先にコーくんを狙ってくると思うわ。峻佑くんを拉致しようとしたとき、『暗示をかけて忘れさせる』って言ってたから、今度こそただの人間であるコーくんには十中八九同じ手段を取ってくると思うの。対抗するには、私が先に暗示をかけておくか、コーくん自身の強い気持ちなんだけど、私の魔力じゃ彼女たちに勝てないから、先に暗示をかけたところで、上書きされるのがオチね。だから、コーくん自身が、暗示に負けないっていう、強い気持ちを持っていて。人の心に作用する魔法っていうのは、かけられる側が一瞬でも弱みを見せたら負けちゃうから、『絶対負けない』って思ってて」

 みちるは少し考えた上で、自分では勝てないとはっきり告げ、耕太郎自身の気持ちの問題だ、と話したが、その表情は絶望で陰がさしていた。

「そうか、わかった。なあ、そんな表情(かお)するなよ、みちる。峻佑たち(アイツら)ほどじゃないけど、俺たちだってもう1年以上付き合ってきてるんだ。あんな突然ポッと出てきたようなのには気持ちが揺れたりなんかしない。俺を信じろ」

 耕太郎は優しくみちるを抱きよせると、耳元でそう囁いた。

「そ、そうだよねっ! コーくんの彼女の私が信じてあげなくちゃ、勝てるものも勝てないよね!」

 みちるは努めて明るい声で喋ろうとしてはいたものの、涙声になっているのを耕太郎は聞き逃さなかった。とはいえ、それをあえて言う必要はない、と耕太郎は自分の胸に顔をうずめているみちるをそのまましばらく抱きしめていたのだった。



 一方、その頃――

「意外と手ごわいですわね……どうしたものかしら」

 放課後、峻佑の奪取に失敗した渚は、帰宅後にひとり考えていた。峻佑の彼女であるちひろと比べて自分の方がチカラは上なので、抵抗されても押し勝てる自信があった。だが、ただの人間だと思っていた峻佑にまさかの後ろ盾がいたことによる動揺と、峻佑が最後に言った、“魔法で人の心を自分に向けさせて本当に満足なのか”という言葉が胸の中で引っかかっていた。

「真っ向勝負じゃ勝てる気がしないから、こんな手段を取っているのよ……」

 ベッドの上に座り、膝を抱えながらぼやいていた、そのとき。“コトッ”という小さな音が渚の耳に届いた。

「だ、誰っ!?」

 妹の栞は買い物に出かけていて不在。両親は共働きで夜遅くならないと帰ってこない。いやそれ以前に家族の誰かだとすれば、不審な足音など立てずに部屋に入ってくるはず、ということから、渚は足音を立てたのは不審者と断定し、叫んで部屋を飛び出した。

「……いない?」

 足音に気づいてから3秒と経たずに部屋を飛び出したはずなのに、部屋の外はおろか、家の中のどこにも不審者が侵入した形跡はなかった。階段の途中にある窓はもちろん、玄関も栞が出かける時にカギをかけたまま、開けられた形跡はない。勘違いか、と部屋に戻りかけた渚だったが、

「何かしら、これ……」

 明らかに見覚えのない、封のされていない白い封筒が部屋の前に落ちていた。とりあえず拾い上げて、中を開けてみると、手紙が1枚入っていた。

「んーっと、『生徒会のカップルを引き裂きたいと望むなら、我々と手を組んでいただきたい。奴らカップルがケンカでもすれば、我らの目的である生徒会への復讐も同時に成すことができるのでな。手を組んでもらえるなら、明日の放課後、旧校舎2階に来てほしい』? なんなのかしら……」

 手紙を読んだ渚は、首を傾げていた。と、そこへ、

「ただいまー」

 買い物に出ていた栞が帰ってきた。

「おかえりなさい、栞ちゃん。さっき、何者かが家に侵入したみたいなんだけど、何をするわけでもなく、ただコレを置いて立ち去ったみたいなのよ」

 渚は階段を下りて居間に向かい、栞を出迎えると、手紙を見せながら先ほど起こったことを栞に話した。

「え? その手紙を置くためだけにこの家に侵入した人がいるの? ちょっと、正気とは思えないんだけど……」

 栞は荷物を置きながら、渚に聞き返していた。

「ええ、部屋にいたら、廊下で小さな足音がして、すぐに部屋を飛び出したけど、侵入者は見当たらなかったわ。代わりに、その手紙が落ちてたの」

 渚はそう言いながら手紙を栞に渡し、読むように促した。

「……なにこれ。ずいぶん栞たちの状況に詳しいみたいだけど、どうする? 明日、この手紙にあるとおり、旧校舎の2階に行ってみる?」

 栞は手紙を読むと、渚にどうするか訊ねた。

「そうね……とりあえず行くだけ行ってみるのも悪くないでしょう」

 渚は頷いたが、内心では“正体不明の相手を信じられるのか”と自問自答するのだった。

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