05-2 生徒会室にて(後)
「……え?」
一瞬何が起こったかわからず呆然とする峻佑。
「峻佑くん! ちょっと、なにしたのよ!」
ちひろは峻佑の身を案じつつも、渚に食って掛かる。
「峻佑さんを捕まえて拉致して、ゆっくり暗示にかけてあなたのことを忘れさせてあげるのよ。さ、参りましょうか」
渚は笑顔のまま、物騒な発言をして、右手をクイッと動かした。すると、光の輪で身動きが取れない峻佑の身体がふわりと浮いて生徒会長の机を飛び越え、渚の腕の中におさまった。
「ちょ、待ちなさいよ! あれ!? う、動けない!?」
慌ててちひろが止めようとするが、なぜか足は一歩もその場から動けなかった。
「わ、私も……っ!」
みちるもどうにか動こうとするが、こちらも足が床に張りついてしまったかのように全く動けなかった。
「甘いのよ、あなたたち。栞たちのオーラが小さいって、ナメてたでしょ。栞の全力、見せたげるよ」
ちっちっと指を振りながら出てきた栞がそう言った直後、ちひろとみちるは目を丸くした。
「そ、そんな……」
「ウソでしょ……」
2人が驚くのも無理はない。栞がチカラを解放したときに感じたオーラは、2人のそれをはるかに上回る大きさだったのだから。
「ちなみに、これで栞の全力の90%くらい。お姉ちゃんが全力出したら、もっと凄いよ。これでも、まだ諦めるつもりはないの?」
ふう、と軽く息をついてチカラを収めると、栞は満面の笑みでちひろやみちるに言い放った。
「当たり前よ。峻佑くんは、誰にも渡さないんだから!」
ちひろはそう強がってみせるが、栞の圧倒的なチカラで押さえ込まれ、動けない事実は変わらない。
「栞ちゃん、そろそろ行くわよ。栞ちゃんが狙ってる耕太郎くんも捕まえに行くんでしょ?」
渚が栞にそう言って促すと、
「はぁい、んじゃあねぇ〜、もうしばらくそこでもがいてるといいよ☆」
栞は可愛らしいウインクをひとつ、ちひろとみちるの方に向けてすると、渚と一緒に峻佑を連れて生徒会室を出ていこうとした。と、
「峻佑くん、ご先祖さまのチカラを解放して!」
ちひろは最後の手段として、そう叫んだ。
「そうだったな。あーらよっと!」
峻佑はニヤリと笑うと、取り憑いてる真野家の始祖、ジェン=マノールのチカラを解放し、渚の魔法による呪縛から脱出した。
「え、そ、そんなっ! 峻佑さんは魔法使い特有のオーラがないのに、なんでなのっ!?」
自らの手中におさめ、高笑いが飛び出しそうになっていた渚は、不意に起こった逆転劇に驚きを隠せなかった。
「ああ、オレはただの人間だ。でもな、オレにはこの方が憑いてるのさ」
峻佑が渚の疑問に応えるようにそう言うと、峻佑の背後にジェンの幽体が浮かび上がった。
「ゆ、幽霊……!」
どうやらこの2人、魔法使いの割に幽霊とかはダメなのか、ジェンの幽体を見て震えあがっていた。
「オレ自身はあくまでただの人間だが、ほぼ常にジェンさんが憑いていていざという時にはチカラを貸してくれる。だから、魔法で暗示にかけて、とかの類はほぼ通用しないからな。キミらこそ、オレを甘く見たな。ってか、暗示でオレの気持ちを自分に向けさせて、ホントにそれでキミらは満足できるの? 本当に好きな相手なら、魔法なんて使わないで正々堂々と立ち向かいなよ」
峻佑は渚たちに、自分を惚れさせたいなら卑怯な手を使わず真っ向勝負しろ、と言うと、ガックリしてる渚たちをちひろやみちると協力して生徒会室から放り出すと、カギをかけて今日は帰ることにした。校門を出てすぐ、みちるは携帯を取り出して耕太郎に電話をかけた。
〈もしもし? みちる、どうしたんだ?〉
すぐに耕太郎は応答し、どうしたのか訊ねると、
「もしもしコーくん、もう家に帰ってる? ちょっと話があるから、これから家に行ってもいい?」
みちるは姫野姉妹のことを話すため、耕太郎にそう訊ねると、
〈ああ、大丈夫だ。――電話じゃ話せないような話、ってことだな? OK、待ってるよ〉
耕太郎は大きく頷き、その内容を察してそう告げると、電話を切った。
「じゃあ、ちょっと私コーくんの家に行って、今日のことを話してくるね」
携帯をしまいながらみちるがちひろと峻佑に向かってそう言うと、
「ええ、わかったわ。行ってらっしゃい。夕飯の支度はあたしたちでやるから、沢田くんとゆっくり話してきていいわよ」
ちひろも笑顔でみちるを送り出した。
「うん、ありがとう。じゃ、行ってくるね」
みちるはそれだけ言い残すと、テレポートでフッと消えた。
「じゃ、あたしたちも帰りましょうか」
ちひろと峻佑は互いに頷きあうと、夕暮れに染まる家路をたどるのだった。