01-1 プロローグ(1)
前作の完結からずいぶん長いことかかってしまい、いるかどうかわからないですが待っていてくださった方々には申し訳なかったです。
ようやく完成した待望(?)の続編、お楽しみいただけたら幸いです。
なお、ジャンルは前作と同じくコメディにしていますが、このプロローグの間は少々シリアスな展開になっておりますこと、あらかじめご了承ください。
峻佑とちひろが交際を始めて1年半、みちると耕太郎が交際を始めてから1年と3ヶ月が過ぎ、季節は再び春を迎えようとしていた。
「じゃあ、行ってくるから、2泊3日の間、家のことは頼むぞ」
峻佑の父、優佑が玄関で見送る峻佑に言った。今日から優佑と妻の絵美は、2泊3日の予定で温泉旅行に出かけるのだ。と言うのも、しょっちゅう出張を言い渡される2人に、久々のまとまった休みが取れたので、峻佑が「じゃあ、たまの休みなんだし、2人でゆっくり温泉でも入ってきたら?」と言ったのをきっかけに、トントン拍子に話は進み、こうして2人で出かけることになった。
「ああ、父さんたちがいないのは出張で慣れてるから何の問題もないよ。父さんたちこそ、気をつけて行って来いよな」
峻佑は心配無用だ、と言うような表情で頷いた。
「そうよね、私たちがいない間にお隣のちひろちゃんとしっかり深い仲になってるんだもの。確かに私は“どっちでもいいから関係を進展させておくように”って書き置きを残したことはあるけど、ホントにやるなんて思わなかったわよ」
絵美は喜んでるのか呆れてるのか、どっちとも取れるような複雑な表情で言った。
「ひどいな、母さん。オレだって、やるときはやるよ。っと、話がそれたな。とにかく、家のことは大丈夫だから、心配はいらない。ほらほら、早くいかないと道が混雑するよ。向こうで観光もしてくるんでしょ? 日が暮れる前に向こう着かないと、大変なんじゃないの?」
峻佑は真っ赤な顔になりながら言うと、2人の背中を押すようにして車へ誘導した。
「そうだな。それじゃ、行ってくる。絵美、行くよ」
「ええ、あなた。じゃあ、私たちがいないからって、ハメを外し過ぎちゃダメよ」
優佑は頷くと車に乗り込み、エンジンをかけてから、窓を開けて絵美に早く乗るよう促し、絵美はその声に頷いて車に乗り込んでから、窓越しに峻佑にそう声をかけた。
「なっ――!?」
峻佑は反論しようとするが、言葉を発する前に車は走り去って行ってしまった。
「ったく……言いたい放題言いやがって……」
峻佑は不機嫌そうに悪態をつくと、家の中に戻っていった。
優佑が運転する車は、しばらくして高速道路へ入り、一路北へ向かっていた。目的地は日光・鬼怒川温泉。多少道は混雑していたものの、ほぼスムーズに走れていた。
「2人で温泉なんて、新婚旅行の時以来じゃない?」
助手席から、絵美が優佑に話しかけた。
「そういえばそうだな。でも、月日の経つのは早いね。ついこないだ峻佑が生まれたと思ってたら、もう高校3年生になって、来年は受験だもんな」
優佑は頷くと、遠い目をして思い出に浸っていた。もちろん、前はちゃんと見ていたが。
「ええ、本当にね。しっかりした子に育ってくれて嬉しいわ」
絵美も留守番をしている峻佑の事を思い、頬をゆるませていた。と、車が栃木県内のインターチェンジを過ぎたあたりで、優佑が異変に気づいた。
「あれ、おかしい……ブレーキが利かない!?」
優佑が青ざめた顔で叫んだ。一度休憩しようとパーキングエリアに寄るために、少し速度を落とそうとしたのだが、ブレーキを踏んでも「スカッ」という空振りのような異音がするだけで、速度は全く落ちなかった。
「あ、あなた。と、とりあえず路肩に寄った方が……」
絵美も動揺し、声を上ずらせながら優佑に言った。
「あ、ああ……」
優佑は車を走行車線から通常は走行が禁止されている路肩に寄せ、ギアをLに入れた上でハザードランプをつけて、エンジンブレーキで速度を落とそうとした。
「パーキングまであと2キロか。絵美、シートベルトはしているな? このまま路肩を走り続ければ、パーキングの入口部分で他の車と衝突する恐れがある。だから、もしそれまでに止まれそうになかったら、最後の手段として、壁にぶつけてでも止める。シートベルトとエアバッグがあるこの車なら、ある程度の衝撃には耐えられるはずだけど、一応、最悪のケースを覚悟しておいてくれ」
優佑は震える声で絵美に告げた。
「え、ええ……わかったわ、あなた。私はあなたを信じる」
絵美はシートベルトを握りしめ、優佑に頷いてみせた。パーキングまであと1キロ。幸い、周りに車はいない。どうやら、空いてきたらしい。しかし、逆に車にとっては危機が迫っていた。
「んなっ!?」
バン、と何かが弾けるような音とともに、車がスピンし、運転していた優佑が驚いて叫んだ。スピンした車は激しく回転したあと、目前に迫っていたパーキングの入口部分のポールに激突して停止した。
「う……」
激突の際、横からポールにぶつかったことで、2人とも窓ガラスに激しく頭をぶつけ、意識を失ってしまった。