26
ロナ島を出て、半年が経った。
帰るつもりのなかったその地に、ルウィーシアは再び足をつけた。
船着き場で見た顔なじみは驚いたような顔をしたが、何も言わなかった。周囲から好奇の目を受けながら、彼女はロザリアの家、ベネットの元に向かった。
ベネットの家は記憶にあるよりも寂れているようだった。玄関先の花壇はすべて枯れ、園芸用の道具も記憶にあるまま放り出されており、あれ以来動かされていないことが伺われていた。
扉についている呼び鈴を引く。返事は遅かったが、のっそりとした足音が玄関までやってきた。
「……はい」
掠れ消えそうな声と共に扉が開けられた。
ベネットが姿を見せた。彼はルウィーシアを見て、目を見開いた。
「ル、ルウィーシア……」
ベネットは最後に見たときより痩せ細り、顔色も悪かった。豊かで色濃かった髪も、その多くが白髪になり、急に老けてしまったかのように見える。表情も何かに怯えた様子だった。
「村長」
名前は呼ばなかった。ルウィーシアはベネットの目を見た。ベネットの目に喜色が映り、涙を浮かべた。
「あ、おお……ルウィーシア……帰って」
ベネットは焦点の合わない目でルウィーシアに手を伸ばした。動きは緩慢で、覇気のなさも相まって本当に老人のようだった。
ルウィーシアは半歩下がった。ベネットの手は空を掻いた。
「村長に最後に言いたいことがあって、戻ってきました」
「なにを――」
「私は罪を償うわ。すべてを告白する」
「……な、何を」
「全部思い出したわ。私がロザリアを突き飛ばして落としたこと、あなたが私を庇ってロザリアを捨てたこと」
ベネットが息を飲む音がはっきりと聞こえた。ルウィーシアは構わず続けた。
「だからあなたの元には戻らない」
「そんなこと、許されるわけないだろう……!」
ルウィーシアが言い終わる前に、ベネットは彼女の首に手をかけようとした。
それを阻んだのは、死角に隠れていたエンデだった。エンデはベネットの手を掴み上げ、何も言わずに押し戻した。ベネットは尻餅をついて倒れた。ルウィーシアは目を逸らさずに言葉を続けた。
「あなたの許しなんていらないわ」
「やめてくれ! 何のためにロザリアを見殺しにしたと思ったんだ! お前のためなんだぞ! それをどうして、どうしてめちゃくちゃにするんだ!」
ベネットの目は血走っていた。
「なんのために! なんのために、娘を捨てたと……!」
「私だけのためじゃないでしょう。結局、やってきたことをバラされたくなかったからでしょう」
だからあの日、彼は娘を見殺しにした。もし助けてしまえば、いずれ娘から不義のすべてを明らかにされてしまう。彼はそれを恐れた。恐れてルウィーシアから目を離さないようにしていたのだ。
ベネットは虚ろな目を向けてルウィーシアの言葉を聞いた。やがて、よろよろと家の中へ戻っていった。
「だから、一緒に罪を償って」
ルウィーシアはその背に今一度声をかけた。しかし、返事が返る気配もなく――。
部屋の奥から聞こえたのは一発の銃声だけだった。
ルウィーシアは目を閉じた。




