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ルウィーシアと祝福の島  作者: 雨天然
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 五人を乗せた短艇は荒れ狂う海に翻弄され続けた。

 ルウィーシアはロザリアを抱きかかえ、他の三人は島へ向かって必死に舟を漕いだ。海面を跳ねるように短艇は海の上を行く。大波が幾度となく短艇を襲ったが、まるで導かれるように舟は島へと進んでいった。

 近付けば近付くほど闇が深まり、風の音も雨の音も遠ざかっていくようだった。不気味なまでの暗闇と静寂に包まれ 濡れて冷えていく身体は、まるで死に向かっていくようにさえ感じられた。すでに嵐は過ぎ去っていた。


 やがて、一行はその島に辿り着いた。


 島は先ほどまでの悪天候が嘘のように晴れており、天には無数の星が煌めいていた。

 しかし、辺りは虫の音一つせず、異様なほど寂然としていた。命あるものは自分たち以外にいないのではないだろうか。また、月明かりが差し込んでいるというのに、隣同士の顔も暗くて見えないようだった。船長が呆然と呟く。


「これが、誰も辿り着いたことのない島なのか? 何もないじゃないか」


 だが、ヴィントは違った。

 彼の目には、多くの死者の魂が穏やかに漂い、島全体が発光しているように見えた。


「ああ……ここだ」


 ヴィントは呟いた。その言葉の響きに、エンデは旅の終わりを感じ取った。

 船長はヴィントに聞いた。


「本当にこの島で間違いないのですか、ポートマン殿」

「そうだよ。この島だよ」

「この島に何があったのですか」


 ヴィントは首を振った。その意味を船長が計り知ることは出来なかった。船の、彼の仕事は、ポートマンをここまで連れて行くことだった。それが契約だった。共に島を目指すようになってから八年、何度も航海をしたが、とうとうポートマンのことを何も知ることはなかった。

 ルウィーシアはロザリアを抱えて最後に舟から降りた。長年夢見ていたはずの『宝島』に辿り着いたというのに達成感など微塵もなかった。ただひたすら疲労感と薄気味悪さだけを感じていた。それでも一縷の望みに縋って、ルウィーシアは辺りを見渡した。この島の何処かにロザリアがいるはずなのだ。


「ねぇ、ヴィント。ロザリアはどこにいるの?」

「この辺りにはいないみたいだね」

「そう……」


 ヴィントに案内され、一行は島の奥へと進んでいく。暗い枯れ木の森を、ヴィントの目だけを頼りに進んだ。

 行けば行くほど、ルウィーシアと船長は不思議な懐かしさと物寂しさに涙を流し、胸を締め付けられる気持ちに歩みを止めそうになった。

 森を抜けると、やがてひらけた場所に出た。ヴィントは足を止めた。


「ここにしよう。こここそが、ポートマンが眠る場所に相応しい」


 雇い主の突然の言葉に船長はぎょっとした。


「一体、何を言っているんですか!」

「今までありがとう。私はここで命を終え、眠ろうと思う。君たちへの報酬の支払いはもう済んでいる。色々無茶を頼んだが、最後の頼みだ。私とこの子の墓を掘る手伝いをしてくれないか」


 そうポートマンは自分とロザリアを指し示した。

 正気とは思えない頼みに船長は二の句が告げなくなった。しかし、ポートマンの悟ったような穏やかな瞳は、彼の言葉が本気だと告げていた。船長はしばらく考えてから、ゆっくりと頷いた。


「あなたはただの船乗りたちに大金をくれて、箔をつけて、おまけに冒険家たちに夢を見せてくれた。この地に共に辿り着けたのは結局私だけだが、船員たちの分まで感謝申し上げる。あなたが望むのであれば、そのようにしよう」


 そういって、船長はポートマンに深々と礼をした。

 それから四人は穴を掘った。二人分の穴を。ルウィーシアは泣くばかりであったが、三人は黙々と掘り続けた。そうして終わる頃には、すでに空が白み始めていた。

 ポートマンは掘られた墓穴に横たわった。まるで寝るかのように。


「さようなら、船長。私の夢に乗ってくれてありがとう。ルウィーシア。どうか、心を強く。そして、エンデ」


 ヴィントはエンデを見つめた。涙は流さない。滲む涙でエンデの姿を歪めたくなかった。それはエンデも同じだった。真っ直ぐに見つめて、最後の姿を眼に焼き付けた。


「君と出会えたことが、僕の人生最大の幸運だった。本当にありがとう、エンデ。ずっと君のことが好きだったよ」

「……ありがとう、ヴィント。おやすみ」


 ポートマンは目を閉じた。ヴィントはその身体から抜け、島の一部になった。

 その場にいた誰にも見えないが、それがポートマンとして歩んだヴィントの最期だった。

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